株価急騰の大林組 投資家が合格点出した「2026年度までにROE10%以上」
建築事業の粗利益率改善がROE目標引き上げに
この状況を改善すべく、大林組は先がけて受注戦略を見直した。大規模オフィスや商業施設などの受注を減らし、採算性の高い案件を増やしたことで、完成工事利益率が向上している。製薬や自動車関連などの工場案件の受注を増やした結果、収益性が改善する方向へと向かっている。 完成までの期間が長い大型案件は、人件費や資材高騰による建設費の行方が読めない上に、デベロッパー側のコスト管理が厳しい。そのため建設費増による値上げが受け入れられない。彼らはかかった建設コストに基づいて、テナントの賃料を決めるからだ。一方、メーカーなどが発注する工場建設は建設コスト以上に製品の品質や稼働開始の時期を重視するので、価格転嫁や値上げも受け入れる傾向が強いという。 野村証券の濱川友吾アナリストは、「(大林組は)受注時での採算管理や施工中での工程管理の徹底が図られており、個別工事での採算悪化リスクが限定的」と評価する。大林組単体の建築事業(民間の請負工事)の粗利益率は、野村証券の23年度予想で6.2%と、9.6%の鹿島を追う形だ。建築事業の利益率改善が、利益を押し上げた結果、ROE目標の引き上げ改善にもつながったと言える。 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00139/031800176/p2.jpg 大手ゼネコン4社 建築粗利率(単体)の推移 評価されている点はほかにもある。自己資本の適正水準を「自己資本比率40%」から「自己資本額1兆円」と、比率から金額べースに変更した点だ。これは、資本効率の向上のために負債を活用する、すなわち財務レバレッジを効かせた経営をしようとする大林組の意志の表れと言えるだろう。資本が過剰になり資本効率が落ちることのないよう、資本額に一定の目安を設けたわけだ。大林組の足元の自己資本額は1兆697億円(23年末時点)とすでに高水準にある。この金額が今後、自社株買いなど、負債を増やす策を講じることで、適正水準に落ち着くことが期待される。 事業から生み出す利益目標から、一定以上のROE達成に必要な資本額の目標を算出し、それを達成するための資本政策を実行する――。投資家が評価したのは、このような大林組の資本政策の方針が持つ一貫性にほかならない。「大林組サプライズ」は、投資家が日本企業に何を望んでいるのかについて、答えを出した象徴的な出来事だったと言えるだろう。
馬塲 貴子