羽生善治も絶賛「チェスよりも圧倒的にいい」…日本の将棋ソフトが巨大資本のチカラなしに「飛躍的進化」を遂げた意外な理由
「将棋ソフトの勝負」をみんなでする
山中将棋の勝負ではなく、将棋ソフトの勝負をみんなでしている(笑)。 羽生ええ。実は私自身、ソフトの世界で将棋はチェスから10年、15年は遅れていると思っていたんです。チェスは世界での競技人口も多いし、論文の質と量もまさっていましたから。でも今はどういう状況かと言うと、将棋の世界で強いソフトは全部無料です。 しかも、いくつもあるソフトを比較して使える共通のプラットフォームも開発されています。さらに使い方がわからない人のために、マニュアルを書いてくれている人もいます。どこまで親切なんだ、と思います。一方でチェスの世界は、ソフトから何から全部揃えようとすると、けっこうお金がかかります。 だから、チェスのソフトはそれほど多くの人が使っているわけではありません。そのため、ここ5年ほどで将棋のソフトが一気にチェスを追い越して、一番手軽で使いやすくなったんだと思います。 山中そういうソフトを開発している人たちのモチベーションは、おそらく収益じゃないんですよね。
データ、ハードウェアよりも「ソフト」
羽生収益ではありません。第一、それを仕事ではやっていませんから。ただ私は、こういうことがあるんじゃないかなと思っているんです。今は結局、ビッグデータと言われるデータの力とか、あるいはハードウエアの計算リソースをどれくらい持っているかが、全体の性能や機能のかなりの部分を占めてしまっています。 すると、プログラマーからすれば、自分の腕の見せどころがないというか(笑)、相当比重が下がってしまいます。その意味で、将棋ソフトの場合は、そこでやりがいを感じることができるようなんです。 山中そうなってくると、どちらかと言うと、もう趣味の世界ですね。 羽生そうですね。それに、いろんなジャンルの人たちがいろいろアイデアを共有して進化しているところが、開発者たちは楽しいのではないかなと見ています。 今まで画期的なプログラムを作った人は、もともと化学が専門とか法学が専門とかまったく違う世界にいるんです。そこで得た知識や経験値を置き換えてソフトを開発していく。そういう人たちが幅広く入ってきているところが大きいと思っています。 だから、将棋のソフトはデータとハードの力ではなくて、ソフトの力をブラッシュアップして強くしてきた側面があります。そういう意味では、「ガラパゴス的な進化」を遂げてきたと言っていいと思っています。 『なぜ研究者は「隠したがる」のか…あまりに非効率な生命科学界の「ヤバすぎる伝統」』に続く
山中 伸弥、羽生 善治