農家の声は届くのか 「10増10減」迎える衆院選
国政選挙のたびに耳にする1票の格差。格差是正のため、27日投開票の衆院選は、選挙区の定数が「10増10減」になるなど新たな区割りが導入された。本紙「農家の特報班」は、農家が減る中、「地域を代表する議員も減ってしまえば、地域の農家の声は、国政に届くのだろうか」との疑問を持った。現行制度の課題と区割り変更の対象となった地域の農家が抱える思いを探った。 「10増10減」対象都県の定数増減と農業労働力の人数 選挙区の定数が減ったのは宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の計10県。それぞれ一つずつ減った。 一方、定数が増えたのは埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知の5都県。東京は五つ、神奈川は二つ、それ以外は一つずつ増えた。 特報班は、これら「10増10減」対象の15都県に、農業に携わる人がどれだけいるか調査。個人経営の基幹的農業従事者や法人などの役員、構成員、常雇いの人数を示す「農業労働力」を、2023年時点と前回衆院選の21年時点で比べてみた。 同じ人数だった岡山、増加していた神奈川を除き、13都県で農業労働力は減少していた。数が最も少なく、減少率も最大だったのは、定数減の滋賀だった。23年時点で1万2000人で、最多の千葉の2割程度にとどまる。滋賀同様に議席が減る愛媛も減少率は高く、滋賀に次ぐ13・2%に上った。
1次産業の声 届きにくくなる恐れ
区割り変更で1票の重みは均衡していくが、農家が減り、定数も減った地域の課題は、国政に反映されるのだろうか。特報班は、専門家に見解を求めた。 議会制度に詳しい政策研究大学院大学の増山幹高教授は「選挙区の区割りをする以上、どうしても人口差は出てくる。1票の重みを均等にするのはほぼ不可能だ」と考える。格差是正を目指した現行の区割りだと「都市部と比べて、人口の少ない地方は議席が減ることになるが、それでいいのか再考する余地はある」と提起する。 地方の議席減は「基幹産業である第1次産業に従事する人の声を聞いて、国政に反映させる国会議員の減少につながりかねない」と指摘。「1票の格差是正だけに固執するのではなく、第1次産業を衰退させないことも念頭に置いて検討する必要がある」と話す。 定数が減った地域の農家はどう受け止めているのか。特報班は現地に飛び、さらに取材を進めると、戸惑いの声が聞こえてきた。