農家の声は届くのか 「10増10減」迎える衆院選
広くなった選挙区 地域課題への姿勢は
特報班が向かったのは、滋賀県野洲市。区割り変更に伴い、同市が入っている滋賀3区は、これまでの4市から6市に拡大した。 同市で水稲と麦、大豆を計42ヘクタール生産する農事組合法人せせらぎの郷(さと)を訪ねると、男性2人が水田の草刈りの準備を進めていた。 「せーの」。2人が息を合わせ、草刈り機を軽トラックに積み込む。「もう年やから。力のいる作業はしんどいわ」と本音が漏れる。 法人代表の冨田眞至さん(70)は「人手不足に資材価格の高騰。本当に大変なことばかり」と話す。 そんな中で迎える衆院選。区割り変更で、人口は同市の5・6万人を上回る8・9万人で、製造業も盛んな甲賀市などが選挙区に加わる。冨田さんは「選挙区が広くなっても国会議員が増えるわけではない。自分たちが置かれている農業の厳しい状況は、政治の現場に届くだろうか」と不安を募らせる。 農業経営の最大の課題に、生産コストの上昇を挙げる。「ここ2、3年で農機の燃料費は3割、肥料代は6割上がった」と冨田さん。「米の概算金は上がったが、それ以上に経費は膨らむばかり」と打ち明ける。 人手不足も深刻だ。作業に携わる組合員は16戸。2018年の設立当時と比べて6戸減り、1戸当たりの担当面積が増えている。 組合員のほとんどが70歳を超える。法人理事の東智史さん(75)は「引退したいという声もある。なんとかお願いして続けてもらっている状況」という。 今回の選挙は立候補者の姿勢に注目する。「広い選挙区であっても、地域の課題を吸い上げる姿勢を持っているかを見極めたい」と冨田さんは話す。
変更した区割り 自分の栽培品目はどうなる
法人だけでなく、若手農家も区割り変更に不安を抱える。特報班は、滋賀と同様に新たな区割りとなった愛媛に飛んだ。 「今度の選挙で当選する議員は、資材価格の高騰対策に力を注いでくれるだろうか」。特報班の取材に、そんな不安を口したのは愛媛県東温市の就農4年目の若手かんきつ農家、西村直人さん(32)だ。 西村さんは中晩かんを中心に、かんきつ1ヘクタールを栽培。中晩かん「愛媛果試第28号(紅まどんな)」の雨よけ栽培を手がける。 品質を上げ、高単価を狙うため、他の中晩かんにも雨よけ栽培を取り入れたい考え。だが費用がネックになっている。現在の雨よけ施設の建設にかかった費用は700万円程度。新たに計画する施設は1000万円を超えるという。 「選挙区の区割りが変わっても、中晩かんの振興を支援してほしい」。西村さんがそう望むのには理由がある。これまでの選挙区は県中部の6市町で構成されていた。区割り変更に伴い、同市が新たに入った愛媛3区は、県南部を含む14市町で構成されている。 県南部は温州ミカンの露地栽培が盛んなだけに「中晩かんの課題にも、しっかり目を向け、対応してくれる立候補者を見極めたい」と西村さんは話す。
<ことば> 1票の格差
選挙区の議員1人当たりの有権者数の差を指す。人口の多い地域の議席を増やす半面、少ない地域を減らし、有権者数の差を是正する。今回の衆院選は、2022年の公職選挙法改正後、初の国政選挙。選挙区は「10増10減」を含め、25都道府県140選挙区で区割りが変わる。
日本農業新聞