「それが一番だらしない」稲盛和夫が「目標達成率99%」の部門リーダーを厳しく叱ったワケ
そのリスクを避けるためにも、稲盛さんは、自部門だけでなく会社全体のことも考えられる、利他的で数字に強いリーダーを育成することが大事であり、また独立採算部門が増えても、社員全員が人間として正しい判断をし、他部門への思いやりを忘れない利他的な考え方を、つまりフィロソフィを共有できるようにすべきだと強調していました。それがなければ、アメーバ経営を正常に機能させることはできないからです。 そのため、JALではまず徹底したリーダー教育を行い、次にJALフィロソフィを作成し、それをベースに全社フィロソフィ教育を進めました。万全な準備をしたうえでアメーバ経営を導入したのです。その結果、アメーバ経営は最初から正常に機能し、全社員が自部門の採算向上に主体的にかかわるようになりました。つまり、全員参加経営が実現できるようになり、JALは短期間に高収益企業へと生まれ変わったのです。 ● 数字を競うことで経営を「ゲーム化」 それが一体感を高め成長に繋がる 当然ですが、アメーバ経営は、決して楽をして高収益を実現するような便利な経営システムではありません。緻密な管理会計の仕組みや分かりやすい採算表を作らなければなりません。また継続的なリーダーや社員教育も必要となります。このように導入には多くの準備が必要であり、その運用も簡単ではありません。
しかし、アメーバ経営を正常に機能させ、全員参加経営を実現させることができれば、その効果はJALが示しているように想像を超えたものになると私は確信しています。 ところで、私が稲盛さんの秘書になった最初の頃、ある官僚の方が稲盛さんに「アメーバ経営とはなんですか?」と聞かれたことがありました。すると稲盛さんは、相手の方が経営には素人だと分かっていたので「ゲームみたいなものです」と答えました。 みんなで毎日一生懸命仕事をし、その結果がどうなっているのか気になって仕方がない。翌朝、自部門だけでなく他部門の結果が発表されると、「昨日は隣のアメーバに負けてしまった」と全員で悔しがり、「今日は負けないぞ」と、みんなが意気込む。このように「ゲームのような感覚で社員1人1人が楽しみながら経営に参加するのがアメーバ経営です」と稲盛さんは答え、さらに「アメーバ組織は原始共同体のようなところもあり、一体感が極めて強くなるのです」とも説明していました。 少人数で、「明日はどうしよう」「来月はどうしよう」と毎日のように喧々諤々の議論を重ね、実践していく。そのプロセスの中で、経営にとって最も大切な強い一体感が生まれるのです。私はその会話を横で聞きながら、アメーバ経営の1つの重要な側面が分かったような気がしました。
大田嘉仁