“バルカン星” は存在しない 6年前に発見が主張された太陽系外惑星の否定
■詳細な観測で判明した “バルカン星の死”
Burrows氏らの研究チームは、2023年の研究とは異なる手法でエリダヌス座40番星Aの調査を行いました。キットピーク国立天文台(アメリカ、アリゾナ州、クウィンラン山)のWIYN望遠鏡に設置された装置「NEID」は、恒星からの光を非常に精密に捉えることでドップラー効果を分析できます。今回の研究では、2021年10月16日から2022年3月12日の期間中にNEIDによって収集された63回分のスペクトルデータ(光の波長ごとの強さ)を対象に分析を行いました。 その結果、恒星の光に現れるドップラー効果について、特定の波長を見た時と、全ての波長を組み合わせた時とを比較したところ、変化に数日のタイムラグがあることが分かりました。ドップラー効果が惑星による影響で生じた場合、このようなタイムラグは発生しません。 むしろこの結果は、恒星の表面に何らかの揺らぎがあって、その影響で波長ごとに異なるドップラー効果が発生していると考えれば説明がつきます。また、変化の周期が恒星の自転周期と一致することも同様に説明できます。Burrows氏らは、内部と表層を行き来する対流や活動的な明るい斑点が組み合わさり、恒星表面が脈動や振動することによってドップラー効果が生じると考えています。 このためBurrows氏らは、論文のタイトルに「The Death of Vulcan(バルカン星の死)」と付ける形で、エリダヌス座40番星Abという惑星は存在しないという結論を出しています。
■いくつかの惑星は否定され、別の惑星が見つかるかもしれない観測法
今回の研究結果は、バルカン星の実在を喜んでいた人々にとっては悪いニュースとなるでしょう。2009年公開の映画『スター・トレック』(監督:J・J・エイブラムス)では、バルカン星が人工的に形成されたブラックホールによって消滅する描写があります。仮にエリダヌス座40番星Aを周回している天体がブラックホールであったとしても、惑星と同様にドップラー効果を通じて発見することができます。SF的には、バルカン星=エリダヌス座40番星Abは何らかの手段で消滅したのかもしれませんが、科学的には「初めから存在しない」という結論の方が “論理的” であることになります。 今回の研究で使用されたNEIDは2021年秋という比較的最近設置された装置であり、まだ運用を開始したばかりです。精密にドップラー効果を測定することによって、今回のように存在が否定される惑星もあるでしょう。しかしその一方で、これまでの観測で見逃されていた新たな惑星の発見に繋がる可能性もあります。そのような惑星は恒星から適度に遠い位置にある軽い惑星であるため、エリダヌス座40番星Abよりも生命に適した環境を持つ可能性もあります。バルカン人との2063年のファーストコンタクトの可能性は、まだ完全に消えたわけではないのかもしれません。 Source Pat Brennan. “Discovery Alert: Spock’s Home Planet Goes ‘Poof’”. (NASA) Abigail Burrows, et al. “The Death of Vulcan: NEID Reveals That the Planet Candidate Orbiting HD 26965 Is Stellar Activity”. (The Astronomical Journal) Katherine Laliotis, et al. “Doppler Constraints on Planetary Companions to Nearby Sun-like Stars: An Archival Radial Velocity Survey of Southern Targets for Proposed NASA Direct Imaging Missions”. (The Astronomical Journal) Bo Ma, et al. “The first super-Earth detection from the high cadence and high radial velocity precision Dharma Planet Survey”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) Matías R. Díaz, et al. “The Test Case of HD 26965: Difficulties Disentangling Weak Doppler Signals from Stellar Activity”. (The Astronomical Journal)
彩恵りり / sorae編集部