“バルカン星” は存在しない 6年前に発見が主張された太陽系外惑星の否定
■バルカン人の故郷発見には疑問符も
ただし、エリダヌス座40番星Abが実在するかどうかには疑問もありました。それは、この惑星の発見手法である「視線速度法」の性質によるものです。 惑星が恒星の周りを公転する際、惑星に引っ張られることで恒星もわずかに運動します。すると、恒星の光には「ドップラー効果」(※4)によるわずかな変化が現れます。惑星の公転は周期的であるため、恒星の光に現れる変化も周期となります。視線速度法では、この光の性質の変化の度合いと周期をもとにして惑星を発見します。 ※4…ドップラー効果の最も身近な例は、自分に向かって近づく救急車のサイレンの音が、遠ざかるものと比べて高く聞こえる現象です。光も波であるため、音と同じように発せられる物体の運動の影響を受けます。 しかし、視線速度法では木星の数倍の質量を持つ惑星は顕著なシグナルとして現れる一方で、エリダヌス座40番星Abのような小さい質量の惑星では主星に対する影響が相対的に小さくなるため、測定することが困難となります。また、恒星自身の活動も周期的に変化するため、区別するのが困難になります。 特に、エリダヌス座40番星Abの場合、公転周期が約42日であると測定されたことに問題がありました。なぜなら、恒星自体の自転周期も約42日であるため、恒星の自転によって現れる周期的な変化を惑星の公転周期と誤認して捉えている可能性が否定できなかったからです。実際に、チリ大学のMatías R. Díaz氏らの研究チームは、恒星の活動と惑星の影響のどちらであるのかを決定することはできないとという研究結果を発表しています。Díaz氏らの論文が公開されたのは、Ma氏らの発見を主張する論文が公開された日の約5か月前です。 また、2023年にオハイオ州立大学のKatherine Laliotis氏などの研究チームは、将来的な実現を目指している太陽系外惑星の直接影像の準備の1つとして、太陽系の近くにある恒星のデータを精査し、太陽系外惑星の発見を示すシグナルが妥当かどうかを検証しました。その結果、エリダヌス座40番星Abの存在を示すシグナルは恒星の自転に由来する可能性が高く、実在しないのではないかという疑問符が付けられました。