“奇策なし”でJの栄冠「実に有効的」 流麗パス封じ「勝者へと導いた」名将の采配【コラム】
【カメラマンの目】Jカップ戦制覇の名古屋・長谷川監督が貫いた堅実スタイル
ルヴァンカップ決勝に進出した、この試合での名古屋グランパスとアルビレックス新潟を表現すると前者が“不動”で、後者が“動”ということになるだろうか。不動と表現した名古屋だが、決して否定的な意味ではない。選手たちがピッチで見せたプレーは、攻守に渡って存分にアグレッシブさが発揮されていたし、新潟も相手に先行されながらも、勝利を諦めない思いから生まれた躍動感のある戦いぶりは、サポーターたちを沸かせた。 【実際の映像】「涙が出るほどだ」ランゲラックへ名古屋サポーターが“敬意”示した感動の光景 前半、その新潟サポーターから歓声が上がった連続プレーがあった。それはチームの自陣でのボール回しだった。自陣でボールをキープする守備陣は、ハイプレスで動きを封じようと迫る名古屋の選手を次々と交わし、パスを確実につなげていった。この流れるような洗練された連続プレーはサポーターをおおいに沸かせた。 しかし、新潟にとってはこの見せ場であるボール回しが仇となる。 名古屋のフォワード永井謙佑が新潟のボール回しのパスミスを逃さず、前半31分にゴールを決める。先制点に続く2点目も決めた永井は、年齢を重ねて縦へと突破するドリブルの威力は弱まっているが、ゴールを狙うストライカーとしての嗅覚は衰えていないことを大舞台で証明した。 この永井に見られたように、名古屋は攻撃では手数をかけないシンプルなプレーでゴールを目指し、守備でも派手さはないが要所を締める堅実なプレーで新潟のパスワークを封じる強さが光った。 名古屋の攻守に渡る堅実なプレーの前に、前線ではなかなかボールをつなげられなかった新潟だったが、後半20分にダニーロ・ゴメス、星雄次、長倉幹樹の3人を一気に投入して流れを変えることに成功する。特にD・ゴメスが流れを変える主役となる。 試合の流れを引き寄せる原動力となったのは個人技だった。決して強く意図してパスサッカーから個人技へとスタイルを移行したわけではないだろうが、新潟は途中投入された背番号17のブラジル人の特徴が強くスタイルに反映され、個人技によるプレーでチャンスを生み出していく。 D・ゴメスはドリブルを武器に右サイドから名古屋守備網を切り崩し、チームに勢いをもたらした。リズムを掴んだ新潟は、パスプレーも縦へと繋げる流れが増えていき、後半26分に谷口海斗がゴール。そして、土壇場のアディショナルタイムに小見洋太がPKで得点して、試合を振り出しに戻したのだった。 新潟は劣勢の展開となったため、どうしても状況の変化が求められ、それが途中出場の選手の特徴と相まってゲームを積極的に動かし、この試合における“動”の印象となった。 こうした新潟に対して名古屋はシンブルに、そして堅実に戦うスタイルを貫いた。その一貫したスタイルが名古屋の“不動”の理由だ。 試合は延長前半3分に名古屋の中山克広のゴールで勝負あったかに見えたが、新潟は90分での勝負の敗戦を救った小見が、延長後半6分に再び試合を振り出しに戻す得点をゲット。この展開に名古屋の長谷川健太監督の思いは、標榜する堅実なスタイルとは裏腹に、ジェットコースターに乗っているような上昇と降下を繰り返す、なんとも心が休まらない時間が続いたことだろう。その思いはゴールを挙げれば歓喜し、失点で険しい表情に戻る姿に表れていた。 そして、勝負はPK戦に委ねられ、名古屋はキッカーの5人全員が見事に成功し優勝を果たす。堅固な守備とチャンスを確実にモノにできる攻撃陣を配置したスタイルは、一発勝負のタイトルを賭けた試合では実に有効的だった。 奇をてらうようなことをせず、自分たちが信じるスタイルを貫き通してタイトルを獲得した名古屋。確実に勝利の道を探り、チームを勝者へと導いた長谷川監督の試合後の表情は、天井知らずの最高の笑顔にあふれていた。 [著者プロフィール] 徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。
徳原隆元 / Takamoto Tokuhara