フェニックス永久保存版インタビュー フランス最重要バンドが全アルバムを振り返る
6.『Ti Amo』(2017年)
―『Ti Amo』が制作されていた時期は、2015年のパリ同時多発テロ事件、2016年のブレグジットやトランプ大統領の誕生などがあり、現在に続く世界の分断が顕在化し始めたタイミングです。そんな時期に作られたこのアルバムは、イタロディスコを筆頭に、ブランコとクリスのルーツであるイタリアの音楽からの影響を取り入れたものでした。 トマ:このアルバムは、自分たちの子どもの頃の記憶に立ち返った作品だと思う。ブランコとクリスはイタリア人で、彼らが子どもの頃に聴いていた音楽がベースになっている。影響という点では新たな金脈を発見したような感覚だったよ。僕はイタリアの音楽はよく知らなかったから。コード使いも違うし、全然違う世界の音楽という感じなんだ。すごく新鮮だったし、インスピレーションの源をどこか他の場所に求めようという思いもあったよ。色々な出来事があってそれが気泡のように消えていったことで、このアルバムは僕たちの子ども時代を再現する、ちょっとしたコンセプトフィルムのような作品になったんだ。もちろん、このアルバムはそうした出来事を否定するものではないけど、バブルみたいなものだったと思っているからね。だから、このアルバムで自分たちのために小さな理想郷を築いたんだ。全ての曲、テーマ、コード、楽器の使い方、歌詞のすべてが僕にとってはとても心地の良い、癒しとも言える作品になっている。 ―ええ。 トマ:だからこそ、このアルバムは今までで最も自分勝手な作品とも言えるだろうね。ニッチなアルバムだし、とても自分勝手で、自分たちの小さな世界観が詰まったものだったから、もしかしたら多くの人たちと繋がれるようなものではないかもしれないと思っていた。それでも、きっと繋がることが出来ると願っていたし、僕たちにはとにかくこういうアルバムを作る必要があったんだよ。 ―イタリアにルーツを持たないあなたが、このアルバムの制作でイタリアの音楽に触れて感じた魅力を教えてください。 トマ:決してイタリアの音楽に限ったことではないけれど、自分たちが子どもの頃に聴いて育った音楽、囲まれていた音楽が呼び覚ましてくれる感情というものは、同じ音楽でなくとも、聴く人に似たような感情を抱かせてくれるんだ。イタリアには素晴らしいアーティストがたくさんいて、曲作りにおいてもまったく異なるスタイルを持っているけど、すぐに入り込むことが出来た。言ってみれば『Wolfgang~』の時にモンテヴェルディなんかに入り込んだのと同じような感じだね。ただし、僕たちは時間軸で移動したのではなく、地理軸で移動したんだ。音楽をサンプリングする時、ランダムにやることが多いけど、このアルバムはそうしたランダムなやり方はあまりなかったね。それこそほとんど活動家みたいな感じで、例えばルーチョ・バッティスティみたいな音楽家を深掘りしていったよ。このアルバムの好きなところは、あるメンバーが誰かの曲を聴いていて、じゃあ僕も聴いてみよう、彼はこの曲を聴いている、じゃあ、今度はこれも聴いてみよう、という感じで世界観を掘り下げていったところだね。このアルバムは、バッティスティやフランコ・バッティアートのような確固たる個性的な世界観を持った人たちにインスパイアされているから、とても複雑な作りになっているんだ。