フェニックス永久保存版インタビュー フランス最重要バンドが全アルバムを振り返る
4.『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2009年)
―『Wolfgang~』はアメリカで大ヒットしたアルバムで、現在のフェニックスの地位を築いた作品と言っても過言ではありません。あなたたちとしては、本作を作っているときから特別なアルバムになりそうだという手ごたえはあったのでしょうか? トマ:そうだね。スタジオで、これまでに感じたことのない自信を持っていたから。この頃は自分たちにとっても興味深い時期で、レコード会社ともマネージメントとも契約していなかったし、どこか自分たちはロックバンドとしては歳を取りすぎたと感じていたんだ。それに、これは4枚目のアルバムだったから、それほど注目もされていなかったしね。でも、実際にスタジオに入って僕たちの曲を聴いたら、何人かはとても気に入ってくれて、何人かの気には召さなかったんだ。それでも僕たち自身は非常に自信を持っていた。もしこのレコードを好きじゃないと言う人がいたら、むしろベターなんじゃないかとさえ思っていたよ。そういう人たちも、結局は好きになるに違いないと分かっていたし、彼らが間違っていることを知っていたからね。そう感じることは珍しいかもしれない。自分のやっていることに価値を見出せず、自分の音楽に自信が持てないこともあるから。 ―ええ。 トマ:でも、この作品に関してはとても自信があったし、バンド人生において非常に重要な人物であるフィリップ・ズダールもいた。彼はプロデュースとミックスの面で助けてくれただけでなく、僕たちを見守ってくれて、時には指導してくれる存在なんだ。このアルバムでは、彼がミックスを手掛けてくれて、彼の友だちがスタジオに僕たちの音楽を聴きにきてくれていたんだ。だから、僕たちは何かすごいものを作っていることに気付いていた。僕たちは、みんなが求めているものを作っているのではなく、みんなが必要としているものを作っているんだってね。彼らは毎日スタジオにやってきて、僕たちの曲を聴いていたよ。まだミックスの途中で、リリースされてなかったからね。だから僕たちは、もしこの人たちが毎日スタジオに足を運ぶんだったら、リリースされたらCDやiPodで毎日繰り返し聴いてくれることになるんだろうな、って思っていたんだ。 ―その時点でもう手ごたえを感じていたと。 トマ:僕たち自身は、何か特別なものを作っているんだからきっとこのアルバムは成功する、と思っていたけれど、それ以上に聴き手は幾つかの曲にかなり執着していると感じていたんだ。だからこそ、レコーディングは本当に楽しかった。『Wolfgang~』の制作の最後の2カ月は、本当に忙しかったけれどね。1日何時間も作業をしていたから、ほとんどせん妄状態だった(笑)。でも、同時に僕たちは人々と繋がることの出来るような、計画と一致するような、そんな何かを作っていることを知っていたんだ。 ―先ほどモンテヴェルディへの言及がありましたが、『Wolfgang~』はモーツァルトやリストにも触れていて、ヨーロッパ音楽の歴史的地層を掘り起こしている側面があります。その一方で、デビュー作以来となるフィリップ・ズダールとの共同プロデュースによって、エレクトロニックでモダンな側面が強調された作品でもありました。様々なレイヤーを持つ作品ですが、あなたはこのアルバムの音楽的成功にとって最も重要なファクターは何だったと思いますか? トマ:それは分からないし、あまり理解したくない気もするよ。予想不能でそこにちょっとしたミステリーがある方が良いんだ。もし成功することが確約されていて、ミステリアスな部分がなければ、それは悲しいことだと思うんだよね。『Wolfgang~』は、バンドが極度の緊張状態にある時に作られたアルバムなんだよ。僕たちを取り巻く人々が亡くなったりして、とてもヘヴィな時期だった。音楽は素晴らしい同種療法(ホモセラピー)だと思うんだ。このアルバムを聴いた人は、恐らく感情的にとても深いものを感じるんじゃないかな。だからこそ、人々を繋げてくれるんだと思う。人間の死生観の深いところに根差した作品だから。それと同時に、楽しいラップフィルムに包まれた作品でもあるんだ。だから、僕にはそのファクターというものは分からないな。