フェニックス永久保存版インタビュー フランス最重要バンドが全アルバムを振り返る
7.『Alpha Zulu』(2022年)
―最新作『Alpha Zulu』は、長年の盟友であったフィリップ・ズダールの他界(2019年死去)、そしてパンデミックという苦難を経て完成したアルバムですね。 トマ:このアルバムは少し『Wolfgang~』みたいな感じだね。色々なものが詰め込まれているから。でも、パンデミックがあったことで、このアルバムのテーマを探す必要がなかったんだ。あまりにも重い出来事だったから、テーマが自然と湧き出てきて、それを純粋に表現する方法を見つけようとしたんだよね。普段からあまりテーマやコンセプトを探す方ではないけれど、特にこのアルバムではその必要性がなかった。アルバム制作のプロセスはとてもセラピー的で、ほとんど自分たちを表現するためのセッションという形を取っていたんだ。この時期は本当にヘヴィで、全ての出来事が苛烈だったよね。スタジオには短い期間だけ入っていたんだけど、あとどれくらいこのスタジオでアルバムづくりをしていられるかも分からなかった。スタジオにいる間はずっとマスクをしていなければいけなかったし、他の誰もがそうであったように僕は歌う時もマスクが外せなかったんだ。そうした出来事が、このアルバムに非常に重い、重厚感を与えたんだろうね。 ―アルバムの中でも、特に「Winter Solstice」は痛切なトーンを感じます。 トマ:「Winter Solstice」は、僕が自宅でリモートで書いた曲なんだけど、その時、家の近くで山火事が起こってね。燃えさかるような炎と煙に囲まれて、日中でも太陽が全く見えず、一日中真っ暗な中で過ごしたんだ。48時間燃え続けて、まるで悪夢のようだったよ(苦笑)。「Winter Solstice(冬至)」には、どうか早く日が長くなりますように、今起こっている全ての出来事が終わって、1日も早く元の日々に戻りますように、という願いが込められているんだ。トンネルの終わりに見える光のように、パンデミックが収束して、僕たちの愛するものをまた作ることの出来る日々が戻って来ますように、という願いがね。だから、このアルバムを僕たちのディスコグラフィのどこに位置づけるべきかはとても難しいね。パンデミックと同時期に作られた作品すべてと肩を並べて、地球規模のディスコグラフィに収めるべきかもしれない。このアルバムはとても深淵なものを持っていて、他のアルバムに較べてポップさには欠けるかもしれないね。歌詞はテーマによりフォーカスしたものになっているし、それに君が言ったように、コラボレーターだったフィリップ・ズダールの死も、全編を通して存在しているんだ。 ―『Alpha Zulu』ではフィリップ・ズダールの代わりにダフト・パンクのトーマ・バンガルテルが意見やアドバイスをくれたそうですが、今後彼がフェニックスの作品にプロデューサーとして本格的に参加する可能性はあるのでしょうか? トマ:それは分からないな。トーマはとても助けになってくれたよ。フィリップは彼独自のやり方を貫く人だったし、トーマはフィリップのことを良く知っていたからね。だから、彼にアドバイスを求めたんだ。スタジオで弱気になっている時には、センスがあって、僕たちがやろうとしていることを理解してくれる人が必要だったから。でも、トーマとフィリップは全く別の人間だから、それぞれが持ち込んでくれるものは完全に別のものだよ。それぞれがとても個性的だから、全然違うやり方で僕たちの脳を活性化させてくれるんだ。トーマは興味深い人物だし、アドバイスを求めるなら彼の他に思いつかないくらいだよ。でも同時に、彼はいわゆるプロデューサーではないし、フィリップに較べたら彼が僕たちにインプットしてくれたものは非常にミニマルだったんだ。何度かスタジオに足を運んでくれて、彼がインプットしてくれたものには本当に価値があるけれど、彼の名前を出すことはちょっと間違った情報かもしれないね。彼の名前を出した途端、話が大きくなってしまうから。実際には、そこまで彼に関わってもらったわけではないんだよ。僕たちのアルバムのプロデュースを彼が手掛けたわけでもないし。彼は、あくまでも友人として僕たちにアドバイスをくれたということなんだ。そのことについては感謝しているけど、この状況を上手く利用するような真似はしたくないな。 ―わかりました。最後にあなたたちのライブについても訊かせてください。フェニックスが結成されてから約30年が経つわけですが、ライブのパフォーマーとしての自分たちはどのように進化していると感じますか? トマ:今現在、僕たちはライブで演奏することを本当にエンジョイしているよ。僕たちのライブは年々劇場型になってきていて、どの曲も演奏するのがどんどん楽しくなってきているんだ。というのも、どうやって演奏すれば良いか分かるようになったし、僕たちは糸で結ばれているような感じがして、満足のいくものになってきたんだ。サマーソニックがとても楽しみだよ。僕たちのプロダクションやアイデアを持ってくると、いつでも日本のオーディエンスはそれをすごく喜んでくれるんだ。日本のオーディエンスが、他のどこよりもより高く評価してくれているのは間違いないね。日本は遠い国だし、セットやプロダクションを輸送するのもかなり複雑な行程が必要だけど、今回は上手くいきそうだし、それだけの手を掛ける価値があると思っているんだ。バンドとして、最もライブをやりたい国であることは間違いないからね。だから、日本でのパフォーマンスはいつでも僕たちにとってとても尊い経験なんだ。 ―そう言ってもらえると、こちらも嬉しいです。具体的にソニックマニア、サマーソニックでのライブがどんなものになるか、もう少しヒントをもらうことは出来ますか? トマ:今回のショーはほとんどミニシアターのような体験で、それを日本に持って行けることにとても興奮しているよ。デジタルシアターのようなものになると思う。この曲ではこんなことを、この曲ではあんなことを、と考えていて、全ての曲がそれぞれの世界観を持っているようなショーになる予定だよ。ちょっと演技が入っているところもあるかもしれないけど、それでも依然としてロックのライブには変わりないからね。そこに、何年もかけて僕たちが築き上げてきた曲を取り巻く世界観がプラスされている感じなんだ。みんなの驚く顔や熱狂する様や、恐れおののく顔、ホッとする顔を見るのが楽しみだよ。僕たちは自分たちの感情の全てを込めてプレイするし、ドラマティックなセットが曲をより盛り上げてくれるに違いない。このショーを日本でやることが出来るなんて、本当にスペシャルな体験になるし、とても楽しみにしてるんだ。 --- SONICMANIA 2024年8月16日(金)幕張メッセ 開場:19:00/開演:20:30 ※フェニックスは23:20~SONIC STAGEに出演 SUMMER SONIC 2024 2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇) 東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ ⼤阪会場:万博記念公園 ※フェニックスは8⽉18⽇(⽇)大阪会場に出演
Yoshiharu Kobayashi