フェニックス永久保存版インタビュー フランス最重要バンドが全アルバムを振り返る
2.『Alphabetical』(2004年)
―『Alphabetical』はディアンジェロなどのネオソウルやR&Bの影響を血肉化しようとした野心作です。 トマ:2枚目のアルバムというのはすごくトリッキーだよね。自分たちでも1stアルバムというのは一生に一度しか作れないものだと分かっている。でも、2枚目以降はその目新しさがなくなるし、成功したものと同じような作風を繰り返して欲しいと思う人たちもいる。それに対して、自分たちでは何か新しいものを作りたいと闘うことになるんだ。『United』で全部の曲が違っていたように、(『Alphabetical』では)何か新しくて違うものを作りたかったんだよ。 ―それで乗り出したのがネオソウルへの挑戦であり、結果的に1stから4年もの時間を要することになったと。 トマ:それはすごい挑戦だったから、レコーディングのプロセスでは色んなものを詰め込むことになった。自分たちでは実現出来ないようなものまで取り入れようとして、更なる挑戦を重ねることになったんだ。結果的に、このアルバムはとても複雑なレイヤーが折り重なっていて、非常にドライなサウンドになったと思う。レコーディング中は、本当に小さなディティールに集中し過ぎて、それがアルバムの特徴になるということには気付いていなかった。僕たちは同じことを繰り返したくないという思いに執着するあまり、とてもドライで、大音量で聴かなければサウンドとして成立しないようなアルバムを作ることになってしまったんだよ。このアルバムは前作と比較して、音響工学的な遊び場といった作品になっているね。
3.『It’s Never Been Like That』(2006年)
―緻密に作り込まれた『Alphabetical』とは対照的に、『It’s Never Been Like That』はライブバンドとしてのフェニックスのエネルギーがダイレクトに感じられる作品です。この変化の一因には前作からの反動もあったのでしょうか? トマ:もちろん、全てのアルバムがその前作への反動だよ。『Alphabetical』はとても神経質に作られたアルバムで、長い時間をスタジオで過ごして、ひとつひとつのサウンドを何度も繰り返し演奏して作られたものだったからね。そういう作品にはしないようにしようと決めていたんだ。それで、ベルリンの大きなスタジオで、全員揃ってレコーディングすることにしたんだよ。スタジオでみんな一斉にプレイして、レイヤーを足すのではなく、同時に演奏する中でもう少し遊んだり試したりした感じなんだ。すごく早く出来上がったレコードなんだけど、そこが気に入っているね。そういう風にして作ったアルバムだから、ライブで演奏するのがとても簡単なんだ。スタジオで既にライブセッションをしていたわけだから。 ―そういうライブ録音に近い形は初めてだったと思いますが、そのようなスタイルでやってみて、自分たちの中で何か意識の変化はあったりしましたか? トマ:このアルバムは、僕たちに音楽に対する真の情熱を呼び覚まさせてくれたと思う。それ以前のレコーディングはとても大変だったし、自分たちのことをスタジオバンドだと認識していた。でも、このアルバムがとうとう僕たちのどこかのスイッチを押してくれて、ライブパフォーマンスというものがどういうものなのか、理解させてくれたと思うんだ。それで、今ではスタジオとライブでの自分たちが喧嘩しないようになったね。とにかく、このアルバムはすぐにライブで演奏するのが楽しくなったし、加えて、これまでの曲をライブでどのように演奏すれば良いか身につける手助けをしてくれたと思う。もちろん、『Alphabetical』の曲の幾つかは今でもどうやってライブで再現したら良いか、まだまだ難しいところだけどね(笑)。 ―なるほど、それが『Alphabetical』の曲を今ではあまりライブでやらない理由なんですね(笑)。先ほども仰っていたように『It’s Never Been Like That』はベルリンで録音されていて、「North」にはクラウトロックの反響も感じられます。 トマ:そうだね、少しそんな感じがする。 ―初期2作はアメリカ音楽からの影響が強いですが、このアルバムでは自分たちのルーツであるヨーロッパ的なサウンドや美学を打ち出したいという意識も生まれていたのでしょうか? トマ:その通りだね。最初の2枚は色んな要素がぶちまけられていたから。イングランドもあれば、アメリカもあるし、ヨーロッパもあるしという感じで。本当に色んな国の要素が入っていたと思うけど、だからと言って“どこ”と特定出来る感じでもなかったと思うんだ。でも、3rdアルバムはどことなくヨーロッパ大陸の雰囲気がするし、ちょっと独特な空気感もあるよね。演奏の仕方で言うと、普通とちょっと違った感じだし、歌詞にしてもああいった曲の中に“ナポレオン”なんていう単語が出て来るのも少し変わってるよね。このアルバムを作った頃から、『Wolfgang Amadeus Phoenix』と「Lisztomania」のことを考え始めていたんじゃないかと思う。というのも、こういうスタイルは『Wolfgang~』でより押し出されているからね。 ―確かにそうですね。「Lisztomania」というタイトルは、19世紀のハンガリーのピアニスト/作曲家であるフランツ・リストの熱狂的なファンを指す言葉から取られていますし。 トマ:思えばこの頃から、自分たちが受け継いできたものや、子どもの頃の曲作りの思い出といったものを活かしたいと思うようになってきた気がするんだ。それに、その頃どんな音楽を聴いていたのか、過去を掘り起こすようなことに目が向くようになった。『United』は自分たちのレコードコレクションを持ち寄ったものだったとしたら、『Wolfgang~』はインターネットの中から同じようにコレクションを持ち寄ったという感じだね。さっきも言ったけど、僕たちのリファレンスにはかなり昔のものも含まれてるんだ。モンテヴェルディのような、何世紀も遡る音楽がね。当時の最先端だった音楽。そういう部分が、『Wolfgang~』の特徴になっていると思う。