若手の注目作家も。『心象工芸展』が表す新たな視点とは? 金沢の〈国立工芸館〉にて。
心に刻まれたその風景は、《Voyage》と《Spotlight》の2つの作品に結実した。心象風景を抽象化し、繰り返し表現する。技法による偶然性と意図が絡まり合って、ひと目では捉えられない美しい景色を描いている。一見すると何のモチーフかわからない模様を「自由に見てほしい」と中田は言うが、ストーリーを知ると一層興味深い。
佐々木類は、1984年高知県生まれ。12ヶ月間、身近な場所で植物を採取し、ひと月毎に建築用ガラスに挟み、焼成して閉じ込めた。いわゆる植物標本とは異なり、ガラスに挟んで窯に入れることで植物は燃えて白い灰になる。 「私にとっての心象風景は‘懐かしさ’という感覚を呼び起こす装置のような存在です。時間軸を超えて、自分と今いる場所を結ぶための必要不可欠な感覚。植物を採集すること自体、五感を通して、記憶を呼び起こす手助けをしてくれます」(佐々木類)
作品タイトルの「植物の記憶」は、英語表記ではsubtle intimacy(かすかな懐かしさ)。植物は土地の記憶でもあり、記憶を記録し保存する方法としてガラスを用いている。ガラス素材との対話を続け、技術を頼りに表現やコンセプトを深化させるべく模索を続けている。
松永圭太は1986年生まれ、岐阜県の美濃焼の産地・多治見で、陶芸家の両親のもとで育った。大学の建築学科を卒業後、多治見の陶磁器意匠研究所や金沢の卯辰山工芸工房でも学び、途方もない時間をかけてできる地層というものをテーマにやきものを制作している。石膏型に液状の泥を流し込んで成形する「泥漿(でいしょう)鋳込み」という量産用の技法を用いながら、あえて通常より時間をかけて少しずつ泥を入れることで地層のように固めて見せることに成功した。
松永はある時、感覚的に付けた『蛻(もぬけ)』という作品名からさなぎを連想した。昆虫は幼虫から成虫になる過程で、さなぎの中で一旦溶けてから羽化する。それが制作の過程と似ていることに気づいた時、さなぎというキーワードによって内面と技術が繋がる感覚を覚えたと言う。表現内容が技法そのものと直接的にリンクすることもある。