若手の注目作家も。『心象工芸展』が表す新たな視点とは? 金沢の〈国立工芸館〉にて。
会場でひときわオーラを放つ金工作家、髙橋賢悟の作品。動物の頭蓋骨らしきものから角が伸び、近寄って目を凝らすと無数の小さな花が付いていて、実に細密な作りなのがわかる。花は勿忘草(ワスレナグサ)と菊。角の部分は花を掬い上げる手の形をイメージしているという。髙橋は生花を元に鋳型を制作し、アルミで花を作る独自の技法を使う。その中で生花を焼成する工程があり、この技法そのものに転生や再生の意味を込めている。東日本大震災時に被災地を回った体験から「生と死」や「鎮魂」をテーマに制作してきたが、今回は「祈り」がテーマだ。 「自然の中で命が循環する風景をよく思い描きます。そこに自分も溶け込んで自然の一部になっていく様な感覚に浸るのが心地いいのです。鋳金の技術は、生命の循環を表現するために理に適っているのではないかと思います」(髙橋賢悟)
展示は若手作家だけでない。彫金の人間国宝でもある、中川衛による象嵌作品の特徴はそのデザイン性だ。工業デザインを学び、電機メーカーでデザイナーとして勤めた後、故郷の金沢で加賀象嵌と出会い、世界各地の忘れられない風景を描いてきた。ある夜、川面を見つめていた時に、流れに周りの街頭やネオンが映り輝いていた。その幻想的な光景をなんとか象嵌で表現したいと実験を重ね、新しい技法を生み出したという。景色から得た技術は他にも4~5種類も。素材や技法までをもデザインする力が、作品に深みをもたらしている。 6人の作家たちが、どのような心象風景をどのように形にしているのか。それぞれの物語を知ってからあらためて見ると、同じ作品もまた違う景色を見せ始める。素材や技法とも分かち難い関係性を持つ「心象」という切り口が、工芸の新しい楽しみ方を教えてくれる。
『心象工芸展』
〈国立工芸館〉石川県金沢市出羽町3-2。~2024年12月1日(日)。9時30分~17時30分 。月曜休。ただし祝日(10/14、11/4)は開館、翌火曜(10/15、11/5)休。入場料1000円。文化の日11/3は無料。
photo_Nik van der Giesen text_Ayumi Iwamoto editor_Rie Nishik...