サイコ芸人が手に入れた「優しさ」 平成ノブシコブシ徳井健太の「褒め芸」
自分自身の地位や実績はひとまず棚に上げて、ほかの芸人の面白さや魅力を熱い口調で語り尽くす。そんな「考察芸」をテレビやYouTubeで披露して話題を呼んでいるのが平成ノブシコブシの徳井健太である。自身も芸人でありながら、誰よりも熱く芸人について語っているのはなぜなのか。(取材・文:ラリー遠田/撮影:木村哲夫/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
僕がやっていることは「分析」ではなく「褒め芸」
「僕自身は分析してるつもりはなくて、その人のいいところを語っているだけなんです。たとえば、ジャガイモを取り上げるんだったら、何科の植物で、どこで栽培されていて、どんな栄養素が含まれているか、っていうのが分析だと思うんです。でも、僕はただ『ジャガイモってカレーに入れたらおいしいよね』とか言ってるだけです」 自身のやっていることは「分析」ではなく「褒め芸」だという。芸人のすごいところを見つけて、褒めるだけ。新刊『敗北からの芸人論』では、そんな彼が思い入れたっぷりに21組の芸人を徹底的に考察している。コラムの題材にした21組の芸人は基本的に自分で選んだ。自分が熱を持ってその魅力を語れる人だけに絞り込んだ。
「単純に面白いことをやって売れている人のことは書けないかもしれないですね。ちゃんと泥水をすすってきた人が好きなんです。この21組に関しては本当に好きだから書けましたけど、好きじゃない人のことを取り上げるようになったら『分析』になってしまうのかもしれないですね」 そんな徳井の「褒め芸」が確立したのは、テレビ東京の深夜番組『ゴッドタン』の「腐り芸人セラピー」という企画がきっかけだ。インパルスの板倉俊之、ハライチの岩井勇気に並んで、徳井が「腐り芸人」として出演して、自らのお笑い観を披露したり、悩みを抱えた芸人にアドバイスを送ったりした。 「あれは隣の2人(板倉、岩井)の腐りっぷりがすごすぎて、腐りで勝負したら勝てないから、邪道だけど僕はここは褒めようと思って、褒める方にシフトしていったんですよね」 腐り芸人の中でも異彩を放つ徳井の「褒め芸」のインパクトは大きかった。『ゴッドタン』に出て以来、街中でもよく話しかけられるようになり、考察芸を披露するような仕事もどんどん増えていった。