「聴力ゼロの私」と「50万人に1人の難病の娘」障がいがあっても、それを言い訳にしない生き方
赤ちゃんの泣き声が聞こえない
子育てが始まり、まず困ったのは赤ちゃんの泣き声が聞こえないこと。牧野さんはずっと起きていて、夫が深夜遅くに仕事から帰宅するのを待って4時間ほど仮眠を取ることにした。途中で娘が泣いたら起こしてもらう。 「毎日すごい寝不足だし、一日のうちでも浮き沈みがあるんですよ。明るいうちは大丈夫かなと思えるけど、夕方になるとテンションが下がってきて、落ち込んでくる。だんだん減っていきましたけど、子どもが3、4か月までは、そんな感じでしたね」 音で異変を察知することもできないので、起きている間は文字どおり、赤ちゃんから目が離せない。料理や洗濯など家事をするときはそばに置いて、頻繁に目を向けた。それでは気の休まる暇もなさそうだが、家族の協力で乗り切ったという。 「夫も休みの日は子どもを見てくれたし、義母も仕事が休みだと手伝いに来てくれたので、そのときはゆっくりお風呂に入って、爆睡するみたいな感じでしたね(笑)」 長女が2歳のときに次女を出産。2人の育児に追われながら、牧野さんはソニーを辞め、なんと聴覚障害者のために起業に踏み切る! 夫も起業したばかりで経済的に苦しい中、新たなチャレンジをしたのはなぜか。 「娘が難病だとわかったとき、いくら調べても将来の見通しが立たなくて、情報がない中での子育てが一番しんどいなって思ったんです。 だから、子どもの耳が聞こえないとわかって不安を抱く親の気持ちもわかるし、聴覚障害者として30年生きてきた私の経験は、ロールモデルになるかもと思ったのが最初のきっかけなんです。聞こえないけど、こんなふうに楽しんでいる人がいるって知ってもらえたらいいなって」 こうして生まれたのが聴覚障害児と親を支援する会社『デフサポ』だ。
生まれたときから聴覚に障害がある子どもの割合は約1000人に1人。親の9割以上は健聴者で、すぐには障害を受容できない人も多いので、親の相談に乗ることからスタート。子どもの成長に合わせて言葉をどう教えていくか、独自に開発した教材を使ってサポートしている。