ブランドセーフティ の「メリット」と「デメリット」再考:デメリット編
記事のポイント ブランドセーフティに基づく広告ブロックは、マーケターの不安から起きる行動であり、リスクを回避しようとしてはいるが、結果として有益な議論を封じる可能性もある。 広告主の過度な警戒はニュースのブロックという問題だけではなく、広告料金の上昇や広告の効率低下を招き、経済的なデメリットも発生している。 ブランドセーフティを適切に管理し、パブリッシャーと広告主が協力することで、高品質なジャーナリズムを支援し、適正なコストでブランド価値を高めることが重要である。 メディア企業によるレイオフが再び始まり、広告のブランドセーフティをめぐる議論が再燃している。 どこか既視感のあるこの出来事に、メディア企業幹部は心穏やかではいられないのではないか。イゼベル(Jezebel)の関係者であればなおさらだろう。フェミニズムなど女性に焦点をあてたニュースや解説で知られるイゼベルは、11月第2週に閉鎖された。 404メディア(404 Media)の記事によれば、暫定編集長だったローレン・トゥーシニャン氏は、イゼベルのサイト閉鎖とスタッフ一時解雇という決定について、「ブランドセーフティ」が主な要因だと親会社のG/Oメディアから告げられたと述べた。イゼベル配信のコンテンツに隣接する広告枠への出稿に対する広告主の懸念が背景にあったという。 メリット編はこちら
ブランドセーフティのデメリット
まず、以下の論点はブランドセーフティ自体への批判ではなく、それにより生じる問題や関係者の不満に焦点を当てたものであることをお断りしておく。たとえばマーケターが自社ブランドを保護するため、機能の不十分さを承知のうえでテクノロジーに依存するという問題がある。それはひとえに「不安」からくる行動だ。そういったマーケターは以前から、リスクが高い、あるいは賛否両論のトピックを扱ったコンテンツに隣接して自社ブランドの広告が表示される可能性と、結果として起こりうるトラブルの嵐に懸念を抱いていたのだろう。 そんなマーケターの不安が抑えられる状況なら、パブリッシャーもある程度は気が楽になるのだが、マーケターの多くは警戒すべきニュースサイトを除外し、会社の方針が決まりしだい、ブランドセーフティ対策のテクノロジーを使って自社広告の表示場所を指定する。この対策は、あるニュースサイトが当該ブランドにとって「リスクがあるか否か」ではなく、「適切なメディアか否か」という判断基準にもとづくものだ。 マーケターは、ブランドセーフティに関しつねに冷静でいられるとはかぎらない。不適切な広告メッセージを発信して消費者の怒りをかったり、判断を曇らせたりはしないかと、物事が悪い方向に向かう可能性にばかり目がいきがちだ。その種の不安を少しでも払拭できるぐらいなら、マーケターはそもそも悩む必要もないのだが、いまは次々と現れる問題に対処すべく、モグラたたきを続けざるを得ない状況にある。ただし、使っているハンマーの質がよくない。 ハンマーの名前が「キーワードブロック」であれ、「セマンティック技術」であれ、結果は同じで、ブランドセーフティ対策は、特定の単語と出現頻度(つまり、キーワード)にもとづいてページ、動画、コンテンツをブロックするものだ。その試みの頻度が上がれば、マーケターが安全でないコンテンツを回避するだけでなく、うっかりしてブランドのメッセージに合致した活発な議論までもつぶしてしまう可能性が高くなる。 マーケターの不安は経済的影響ももたらす。広告主がある種のサイトを拒否しはじめると、「安全ゾーン」とみなされたサイトの広告料金が上昇する。結果として、広告の効率が低下し、広告主が目指す成果を達成できなくなる恐れが出てくる。加えて、オーディエンスへのリーチが狭まるというデメリットも大きい。 不安にかられて行動する人たちには物事の本質が見えにくくなる。リスクを回避しつづけるだけでは成功は手に入らない。ブランドの保護と、ブランドの価値を適正なコストで高めるチャンスの最適なバランスを見つけることこそ重要なのだ。