「知的障害のある芸術家に正当なロイヤリティを支払う」―双子の兄弟が仕掛けるしなやかなゲームチェンジ : 盛岡ヘラルボニー LVMHと組み異彩作家の才能を世界へ発信
現在、ヘラルボニーが保有するライセンスは、国内外37の社会福祉施設でアート活動をする153作家による2000点以上のアートデータだ。パートナー企業はデザインを使うたびに、ヘラルボニーに使用料を支払い、そこから作家や福祉施設に報酬が支払われる。
拡張したいのは「市場」ではなく「思想」
「ヘラルボニーは、ネクタイや商品を売りたいのではなく、障害福祉の領域の中に新しい選択肢をつくりたい。市場を拡張するよりも、“障害があっても、当たり前に肯定される世界を” という思想を拡張したい。その思想が拡張した上で、新しい市場ができあがる土壌をつくりたい」と文登さんは強調する。 たとえば、ヘラルボニーが各地の百貨店で開催する、異彩作家によるライブペインティングでは、アーティストたちが本能にまかせて自由に絵を描く姿が感動を呼ぶ。 「電車やバスの中で知的障害者が奇声をあげる場に遭遇するくらいしか障害者との接点がないと、怖がられて、差別や偏見が助長されてしまったように思います。リスペクトが生まれる状態で彼らと出会えれば、認識に変化が生まれてくるはずだと信じています」
「親なき後問題」とも向き合う
文登さんがヘラルボニーの活動に手応えを感じた始めたのは、2019年12月。ダウン症の八重樫季良さんのアートでJR花巻駅の164枚の窓ガラスをステンドグラスのようにラッピングすると、岩手日報が「地元の芸術家、花巻駅を彩る」と報じた。「障害者」ではなく「芸術家」と紹介されたことに、八重樫さんの家族や施設関係者も喜んでくれた。 また、ある異彩作家の家族から「今年は(ライセンス料などで)400万円の収入があったので、確定申告をします。私たちが扶養されるという冗談のような話が現実になるかもしれません」と感謝の手紙が届いたという。 知的障害者の親の多くは、自分たちの死後、子どもが社会に受け入れられ、経済的に困窮することなく暮らしていけるか不安を抱えているという。福祉的な支援の枠組みの外側で生きる場所を見つけることができれば、親としても心強いはずだ。