「知的障害のある芸術家に正当なロイヤリティを支払う」―双子の兄弟が仕掛けるしなやかなゲームチェンジ : 盛岡ヘラルボニー LVMHと組み異彩作家の才能を世界へ発信
障害者と社会を結ぶネクタイ
文登さんと崇弥さんは、「るんびにい美術館」で受けた衝撃や感動を、多くの人に伝えたいと、アート作品のデザインを生かした商品を作ろうと考えた。障害者と社会とを「結ぶ」象徴として、最初に取り組んだのがネクタイだ。 といっても、アパレルとは無縁のずぶの素人が、いきなりネクタイを製造販売しようとしても、まともに相手をしてくれる業者は簡単に見つからなかった。何社も何社も門前払いされた後に、老舗のネクタイ専門店「銀座田屋」の工場に直談判に行くと、2人の熱意が通じ、製造を引き受けてもらえることになった。田屋にとっては、創業以来初めての他社商品の製造受託になったという。「障害=欠落というイメージを変えるためにも、最高品質の商品からスタートできたのはうれしかった」
ネクタイの商品化実現を皮切りに、ヘラルボニーは他社との業務提携を加速させる。日本航空(JAL)の国際線の機内食のスリーブ(紙帯)、ヨネックスのスノーボード、東海旅客鉄道(JR東海)が運営する東海道新幹線・東京駅の切符売り場や改札内のスロープなどに、異彩作家のアートが採用された。
日本橋三越本店のショーウインドーにエルメスやルイ・ヴィトンなどのスーパーブランドと並んでヘラルボニーの商品がディスプレイされたこともあった。他にも、家具やアパレル、食品・飲料などの商品やパッケージに、異彩アートが起用された事例は、年間100を超える。
コラボ商品で認知度をアップ
通常、アートで収益をあげるには、ギャラリーで展示会を開催して作品を販売するのが定石だ。しかし、ヘラルボニーは作品を多くの人の目に触れる機会をつくって、収益機会を増やせるように、ライセンシング・ビジネスを展開している。
「ウォルト・ディズニーのミッキーマウスが世界中であらゆるジャンルの商品に登場するように、ヘラルボニーを介して、作品契約作家の作品を広め、ブランド価値を高め、継続的に収益を得られる仕組みにしたい」という文登さん。