「高齢者は労災のリスクが高い」 60代“測量士”山中での作業中に起こった労災事故の損害賠償を請求
「3社ともに安全配慮義務違反」
提訴後に行われた会見で、原告側の伊藤安奈弁護士は、本件の法的問題点を2つ指摘した。 (1)転倒リスクについて口頭での注意などの主観的な対策にとどまり、適切な安全器具の提供など客観的な対策をしなかったことによる、安全配慮義務違反。 (2)労働安全衛生法62条や厚労省の「エイジフレンドリーガイドライン」では、中高年齢労働者の身体機能の低下などに応じて、必要な対策をとることを使用者に求めている。しかし、原田さんの年齢を考慮した安全対策は行われなかった。 また、安全配慮義務違反は、直接の雇用関係にある使用者(原田さんの場合は二次下請)のみならず、元請企業にも認められる場合がある。原告側は、本件では元請・一次下請にも違反があると考えて、両社を訴訟の対象に含めた。 原田さんは、事故時の状況や事故後における会社の対応について語った。 「事故後に会社側と相談すると、ロープや背負子を提供して、人員を増やすなど、再発防止策を検討するとの返答があった。 しかし、実際には滑り止め付きの長靴が提供されるだけだった。人員は、以前よりも減らされた。 現場は厳しい斜面だったが、作業員への適切な指導はされなかった。3社は、安全配慮義務を怠っていたと言わざるを得ない」(原田さん)
敬老の日(9月16日)に「高齢者労災・無料相談ホットライン」を開催
会見には総合サポートユニオンの池田一慶執行委員も参加し、高齢者の労災問題について説明した。 今年5月に厚労省が公表した統計によると、2023年における労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高齢者の割合は29.3%。同年の雇用者全体に占める60歳以上の高齢者の割合は18.7%であったため、高齢者はとくに労災のリスクが高いことがうかがえる。 また、60歳以上の男女別の労働災害発生率を30代と比較すると、男性は約2倍、女性は約4倍。労災による休業見込み期間も、年齢が上がるにしたがって長期間となる。 近年では、生計を立てるために労働を続ける必要のある高齢者が多数いる。しかし、高齢者は雇用先や転職先を見つけることが難しいために、職場内での立場が弱くなり、労災などの被害に遭っても使用者に対して権利を主張しづらいという問題がある。 「今回の訴訟で、二次下請の立場である原田さんが一次下請や元請の企業にも損害賠償を求めることは、きわめて意義が大きい」(池田氏) 総合サポートユニオンは、「敬老の日」である9月16日(月)の17時~21時に「高齢者労災・無料相談ホットライン」を開催する。電話番号は0120-333-774。
弁護士JP編集部