トランプが和平を実現しても、ウクライナ戦争が終わらない「意外な理由」とゼレンスキーが迫られる「究極の二択」
絶対譲れない2つのこと
前嶋:では、米軍がウクライナに駐留するかといえば、アメリカでは武器供与以上に反対する声が大きくなるでしょう。大変なコストがかかりますからね。 現状ウクライナは消耗戦を続けるか、領土をあきらめるか、どちらかしかなくなっている。 廣瀬:ロシアに有利になるような停戦は望まないものの、「和平を進めたい」という声が増えているという大変複雑な状況です。それだけウクライナは消耗していて、これ以上戦争が続くことに絶望感を抱いているのです。戦争の負担を子供世代に残したくない……という悲痛な声も強まっています。 前嶋:では、この戦争はどう終結すると見ていますか。 廣瀬:ウクライナが譲れないことは2つあります。 まず、ヤルタ会談のように、ウクライナ不在のまま和平交渉がなされることがあってはならないということ。 次に、朝鮮半島のように、停戦したが当事者間の対立は未解決の状態というフローズン・コンフリクト(凍結された戦争)も避けたいと考えています。実は旧ソ連では、ジョージアのアブハジア紛争など、フローズン・コンフリクトになった事例が多い。「凍結」の後、奪われた領土を取り返したのは一度のみ。ロシアの同盟国アルメニアが実効支配していたナゴルノ・カラバフを、アゼルバイジャンが武力で取り戻したケースだけです。 つまり多くの場合、一度ロシアに領土をとられると、首根っこをつかまれた形で「停戦状態」が続き、平和が望めないのです。同じ轍を踏むことだけは避けたいというのが、ウクライナの切なる願望なんです。
トランプ外交の鍵
前嶋:ウクライナとロシアの間に「非武装中立地帯」をつくる話もありますね。これは、朝鮮半島化シナリオにつながる可能性もありますか。 廣瀬:それはもちろんなのですが、そもそもウクライナの人々は「ロシアが約束を守るはずがない」「非武装中立地帯など機能するはずがない」と主張しています。つまり、非武装中立地帯案は望んでいないのです。 前嶋:ウクライナの人々は「戦争は終わってほしいが、終わらせ方も重要だ」と考えている。難航するのは必至ですが、それでもトランプは「自分なら戦争を終わらせることができる」と思っている節があります。 トランプ外交の鍵は「取引」です。彼は、基本的にアメリカ、そして自分や支持者が得するように取り引きしようと動くポピュリストです。「俺ならウクライナと取引をしてでも納得させて、プーチンと交渉できる」と考えているのだと思います。冗談のようですが、彼は本気でウクライナ戦争を終わらせて、ノーベル平和賞を狙っているようですから。 廣瀬:問題は、彼には前言撤回が多く、信用が置けないという点です。ウクライナ側も、トランプのくり出してくる状況にどう対処するかを考えている。少なくとも、トランプに信頼を置いているとは思えません。 もうひとつの大国・中国もまたトランプ対応に苦慮することは間違いありません。トランプは中国に60%、それ以外の国には10?20%の関税をかけると発言してきましたね。これを本気ととらえるかどうかで、トランプ政権への向き合い方も随分と変わるでしょう。 前嶋:関税ひとつをとってもトランプの本音を読み解くのは本当に難しい。合衆国憲法は、関税に関する権限を議会に与えており、原則、大統領に決定権はありません。 ただ、今回、議会は共和党が多数派です。トランプが望む法案を議会で通して、中国と取り引きできる。「こちらには輸入関税を6割にする準備と覚悟がある。それを4割にしてやるから、アメリカのものをもっと輸入しろ」といったように取引材料にするのではないかと思います。 後編記事『【トランプ再選は日本にとってチャンス】といえるもっともな理由…「ウクライナ戦争は終わり、台湾有事は起きない」』へ続く。 「週刊現代」2024年11月30日号より
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