日本人の暮らしの根幹・稲作にちなんだ名字「稲垣」のルーツ
稲垣(いながき)
「稲垣」とは、刈り取った稲を木に垣のように掛けつらねて干してあるもののことで、「はさ」ともいいます。「稲垣」という名字は、これに因むものです。 しかし、「稲垣」にはそれ以外のルーツもあります。 現在、「稲垣」が多いのは愛知県から三重県にかけての地域で、とくに愛知県の西尾市と安城市に集中しています。 一方、三重県では津市から四日市市にかけて多く、津市の旧美里村では最多名字でした。 この地域の「稲垣」は地名由来で、ルーツの地は伊勢国一志郡稲垣(現在の三重県津市白山町)です。ここをルーツとする稲垣家では、江戸時代に志摩国鳥羽藩主となった稲垣家が有名です。清和源氏の子孫といわれ、のちに三河国(現在の愛知県東部)に転じて、戦国時代に松平氏に従ったのが祖です。 東海地方に次いで多いのが富山県で、とくに上市町と旧大門町(射水市)に集中しています。こちらの「稲垣」は、「稲垣=はさ」に因むものではないかと思います。 なお、平成の大合併まで青森県にあった稲垣村は、明治22年に近隣の9か村が合併した際に「稲の垣を築く米の主産地になるように」としてつけられた新しい地名で、名字のルーツの地ではありません。
森岡浩/Hiroshi Morioka
姓氏研究家 1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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