歌詞の一部がSNSで批判され――尾崎世界観が語る、言葉をめぐる苦悩
女性目線の歌詞を書くようになったのもその頃からだ。 「男の気持ちはなんとなくわかってしまうので、そういうことはやりたくなかった。バイトをしながら売れないバンドをやっていて、『世の中』に全然ハマらない中でわかりきっていることをやるのが怖かったし、わからないものに向き合うことで救われていました」
恋愛に溺れていくのはダサいという気持ちがある
クリープハイプの歌詞は恋愛をモチーフにしたものが多い。ストレートなラブソングではなく、ひねくれた思いや扱いに困る厄介な心情をフィクションのストーリーに託してつづるものが中心だ。その歌詞のリアリティーが女性からの支持にもつながってきた。恋愛というフィルターを通すことで、何が見えてくるのか。 「自分ですね。恋愛の相手を通して自分が見えてきて、それが面白い。ただ、恋愛の歌だけで生きているつもりはないし、恋愛に溺れていくのはダサいという気持ちもある。クリープハイプの曲を『メンヘラ』っぽいと言う人もいますが、何かを深く考えたり何かに深くのめり込んだりすることができない人が、自分を正当化するために無理やりカテゴライズしているだけだと思います」
「これは自分の歌だ」と感じてくれるファンが多い
最近ではTikTokをきっかけに知ったという若い世代のファンも多く、キャリアを重ねてきた今もライブの動員は増え続けている。楽曲に「これは自分の歌だ」と感じバンドに入れ込む、熱量の高いリスナーが多いのが特徴だ。 「しょうもな」では「あたしは世間じゃなくてお前に お前だけに用があるんだよ」とも歌われる。その言葉は、ファンとバンドとの関係性を象徴する言葉のようにも思える。 「クリープハイプって、こういう世の中にとっては、うっとうしい音楽だと思うんです。なんだかちょこまかして邪魔だと感じる。自分でもそう思います。かゆいところに手が届くような表現をしたいと思って歌詞を書いているから、普通に生きている人にとってはうっとうしい。でも、だからこそ自分のためだけに歌ってくれていると思って聴いてくれるファンがいるバンドなんです。それがゆえに人前で好きと言えない。ライブでも『みんなに言いづらいだろうけど、でも来てくれてありがとうね』ってよく言ったりします」 ___ 尾崎世界観(おざき・せかいかん) 1984年11月9日、東京都生まれ。2001年結成のロックバンド・クリープハイプのボーカル・ギター。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2016年に初小説『祐介』(文藝春秋)を書き下ろしで刊行して以降、作家としても活躍する。2021年、『母影』(新潮社)が第164回芥川賞候補となる。今年4月に「ex ダーリン」を配信リリース、初の歌詞集『私語と(読み:しごと)』(河出書房新社)を刊行した。現在、2021年12月に発表したアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』を掲げての全国ホールツアーを開催中。 (衣装協力:DAN RIVER/C.E.L.STORE、UN/UNBIENT)