歌詞の一部がSNSで批判され――尾崎世界観が語る、言葉をめぐる苦悩
今年4月にメジャーデビュー10周年を迎えたロックバンド・クリープハイプ。その人気の理由のひとつは、フロントマンの尾崎世界観が書く歌詞だ。熱烈なファンの支持を集める一方で、刺激的な歌詞の一部が切り取られて批判されることもある。尾崎は「世間ヅラ」をした人の意見に「やりきれない気持ちになる」と語る。小説が芥川賞候補になるなど作家としても活躍し、創作活動を通してつねに言葉と向き合ってきた彼は、言葉に対して厳しくなっている時代の風潮をどう見ているのか。 (取材・文:柴那典/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「ブス」と歌う曲で「世間」にたたかれ憤り
クリープハイプが昨年末に発表した最新アルバムに「愛す」という曲がある。「愛す」と書いて「ブス」と読む。「逆にもうブスとしか言えないくらい愛しい それも言えなかった」と、思春期ならではの不器用な他者への距離感を描く。この曲への反応が尾崎の目にとまった。 「『愛す』という曲を世に出したときに、音楽ライターくずれの人に否定的なことを書かれたんです。『いまだにブスという言葉を歌詞に使ってるミュージシャンがいるんだ、信じられないな』という会話をツイッター上でしていたのを見た。歌にするために書いた言葉が思わぬところに届いて、強引に歌から言葉だけが引き剥がされるのを目の当たりにして、難しい時代だと改めて感じました」 時代の変化によって「使うべきではない」とされる言葉が増えていくことに、戸惑いはあるのか。 「やりづらいと思うことは本当にあります。しかもそのほとんどが、ただ言いたいだけでたいして音楽に興味を持っていない人の意見だということに、すごくやりきれない気持ちになりますね。言葉を音として聴いている人に言われたくないと思います。自分はまたその感情を歌にするんですけど、それにもどこかでブレーキがかかっているかもしれない。『愛す』の批判を見た感覚をもとに、『しょうもな』という曲を書きました」 「しょうもな」のサビに、「今は世間じゃなくてあんたにお前にてめーに用がある」という言葉がある。 「『お前、人間のくせに世間ヅラするなよ』って、すごく思うんです。お前誰だよ、ひとりのくせにって。その世間というものを引き剥がしたらひとりの人間になるわけだから、だったらこっちから引き剥がしてやるぞという気持ちになる」