歌詞の一部がSNSで批判され――尾崎世界観が語る、言葉をめぐる苦悩
「歌詞がいい」と言われてモヤモヤ
「今の世の中では言葉の一部だけを切り取られることが増えてきたけれど、クリープハイプというバンドは以前からそれをされてきました。特にファンでもない人に『クリープハイプって人前でセックスとか言ったりするバンドなんでしょう?』と言われたりする」 インディーズ時代、無名だったバンドが飛躍するきっかけになった初期の代表曲のひとつが「HE IS MINE」。曲の中で歌詞の「今度会ったら何をしようか」という問いかけに観客が「セックスしよう!」と大合唱で応えるやりとりがライブの定番になったことで、そんな反応があったという。
そしてメジャーデビューから10年。先月、初の歌詞集となる『私語と(しごと)』が刊行された。 尾崎の書く歌詞に、ありきたりな言い回しは一切ない。ときに巧みな言葉遊びをちりばめ、ときに刺激的できわどい表現を用いながら、いとおしさや、葛藤や、さまざまな感情のあやを描く。 「歌詞がいいという感想をいただいたり、歌詞そのものにより注目していただいたりすることが多いのですが、自分としては本当に歌詞が読まれているのかという疑問があったんです。音楽だから当たり前だけれど、みんな言葉をただ音として聴いていて、結局メロディーに乗っている音に反応しているだけで、そこに言葉はないんじゃないかと。本当に自分の言葉がちゃんと伝わっているのか、確かめてみたい気持ちがあって、それで歌詞集を出そうと思いました」
10代後半で書いたエロい歌詞が転機に
尾崎が曲を書き歌い始めたのは中学生の頃。高校生のときにクリープハイプを結成した。 脚光を浴びるようになるまでは、そこから10年近くかかった。アルバイトを転々としながらバンドを続ける日々を過ごす中で、少しずつ自身の作風を形作っていった。 「中学生のときに書いていたのは、ただ歌うための歌詞でした。鼻歌では格好がつかないから、とにかく言葉をはめるだけだった。そこから徐々に試行錯誤して、10代後半ぐらいにエロいことを歌い始めたときに、自分らしさが出てきたというか、自分が書くべきことが見つかったような気がしたんです。当時は日本の古い映画や小説に惹かれていて、そこではエロいものが綺麗に描かれていた。泥くさくて男くさいエロではなく、もう少し品のあるエロ、美しいエロというものを意識するようになった。それならいろいろやれそうだと思ったし、周りにもまだそれをやっている人がいなかった。そこから興味を持って入っていきましたね」