まさに"今を生き抜くための知恵"。あのシェイクスピアの言葉をアップデートしよう!
ウィリアム・シェイクスピアといえば、誰もが一度は耳にしたことのある劇作家。さわりだけでも彼が書いた名ぜりふや、物語を知っている人もいるだろう。だが実際の舞台や戯曲となると、「古典だから難しそう」と思い込んでいないだろうか。400年間、世界で読まれ、演じられ続けてきたシェイクスピアを楽しむ方法を演出家の木村龍之介さんに聞いてみよう。 【画像】まったく新しいシェイクスピアの入門書 * * * ――木村さんとシェイクスピアとの出合いは? 木村 大学1年生の秋でした。私は2年浪人して東京大学に入ったんですが、全然大学になじめなかったんですよ。自宅浪人していたこともあって、コミュニケーション能力はゼロに等しかった。 でも頭の中には夏目漱石やニーチェ、ドストエフスキーがひしめき、妄想が膨れ上がっていた頃に、授業を抜け出して行った大学の図書館で、たまたま手に取ったのがシェイクスピアの『マクベス』でした。 読んだときの感動は今でもありありと思い出せます。それまでの自分には勉強で得た知識はあったけれど、世界に触れているという手触りがなかった。世界を半分しか知らない感じでした。それが『マクベス』を読んだときに「わあ、これが世界か」と思ったんですよね。 3人の魔女が出てくるのは『ハリー・ポッター』みたいだし、物語がとにかく面白い。終盤「バーナムの森が動いて向かってくる」というせりふからは、米同時多発テロのときにワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んでいくのを見た記憶がよみがえってきたり、いろいろな感情が相まって全身が震えるような体験だったんです。 ――『ロミオとジュリエット』などはご存じなかった? 木村 知識としては知っていたと思うんですが、「今」と結びつけてシェイクスピア作品が心に入ってきたのが『マクベス』だったということですね。 その日の帰りがけに渋谷のTSUTAYAに寄って、『NINAGAWA・マクベス』のビデオをレンタルしました。そうしたら舞台いっぱいに作られた巨大な仏壇の中で芝居が演じられていて驚いた。自分が読んだ戯曲がこんなふうに舞台になるのかと感動しました。 戯曲を読んでから演劇を見たのも良かったと思います。演劇は作り手の解釈が前に出ますから。 ――400年前の作品がリアリティを持って現れる体験は、古典特有の楽しみ方のひとつですね。 木村 いいタイミングで出会えました。僕はレディオヘッドやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどのロックバンドが好きですが、彼らのアルバムを初めて聴いたときの感じに近かった。 「このサウンドはなんだ」「カッコいい」と思うようにシェイクスピアに触れたんです。 90年代の音楽やアートが持っている手触りはヒリヒリするようなリアリティを持っていると思うんですが、そのリアルな世界とシェイクスピアが、僕の中で重なったのかもしれません。