まさに"今を生き抜くための知恵"。あのシェイクスピアの言葉をアップデートしよう!
――木村さんはシェイクスピアを「人間を『シェイク』する天才であり、人間を『スピア』する天才」と書いています。 木村 僕が感じているシェイクスピアの魅力なんですよね。 人の感情を揺り動かし(シェイク)、見事に本質を突き(スピア)、伝えることができた人。こう見れば人間を理解できる、こうとらえれば困難に立ち向かっていける――といった生きるヒントも含めて、人間の普遍性を言葉で表現する天才でした。 古代ギリシャからシェイクスピアの時代(16世紀後半から17世紀初頭)、そして現在に至るまで、人間の普遍的な部分は変わりません。もちろん科学技術の進歩によってライフスタイルや表面的な部分は変化するので、刷新していく必要もあります。 演劇というメディアについていえば、シェイクスピア作品は現代に合わせてリバイバルする、リボーン(復活)させるのに適していると思います。 ――シェイクスピアの言葉は本当に哲学的だと思いました。例えば「嫉妬」について。〈用心なさい、将軍、嫉妬というやつに。/こいつは緑色の目をした化け物だ〉(松岡和子訳『シェイクスピア全集13 オセロー』第三幕第三場、ちくま文庫)などは印象的でした。人間の負の感情に向き合ったシェイクスピアの言葉は、人生に悩む読者の味方になってくれそうです。 木村 シェイクスピアは恋愛から権力欲まであらゆる感情を書いていますが、人間の感情の中でも嫉妬は特別なものだと感じていたんだと思います。だから悲劇ばかりでなく喜劇にも何度も出てきます。 「緑色の目をした怪物」になってしまうことについて、シェイクスピアがこれでもかと描いているのは、おそらくどんな人間にもある感情だと言いたかったんだと思います。 だからこそ、シェイクスピアからわれわれが学んだり感じたりすることも大きいし、ひいては味方になってくれるといえるでしょうね。 ――ところで本のタイトルは『14歳のためのシェイクスピア』ですが、大人になってからも間に合うでしょうか。 木村 肉体は戻れなくても、私たちの精神はいつでも14歳に戻れますよね。シェイクスピアは僕をいつも14歳に戻してくれます。 14歳の頃って、答えが欲しいわけじゃないでしょう。何かに驚いたり、疑問を持ったり、いろいろな問いを抱えられる時期だと思う。その解決策がわからなくて「死にたい」と思ったりもする。 でもそこにシェイクスピアがいてくれると、14歳に巻き起こる感情の暴風や問いが連続してやって来る忙しさに対して、ポジティブな見方ができます。14歳の気持ちでありたいと思うとき、シェイクスピアを読むのはオススメです。 ――最後に、14歳の観客に最初のシェイクスピア作品として薦めるなら、どれにしますか? 木村 『ハムレット』や『夏の夜の夢』もいいけど、『ロミオとジュリエット』かな。手違いでふたりは死んでしまいますが、愛を成就させることを最後まで信じ続けました。 シェイクスピアはその結末を否定も肯定もせず、ただ観客に問いかける。その問いかけこそが14歳にとって贈り物になると思います。 自分でせりふを言ったり演じてみると、また理解が深まるんです。学校でシェイクスピアを題材にした演劇教育プロジェクトにも着手しています。 また、誰でも通える「演劇の学校」も定期的に行なっています。14歳も、大人も、ぜひシェイクスピアで遊んでほしいですね。 ●木村龍之介(きむら・りゅうのすけ) 1983年生まれ。東京大学文学部でシェイクスピアを研究。在学中からプロフェッショナルな現場で俳優・演出を学び、2012年に「カクシンハン」を立ち上げる。『ハムレット』『夏の夜の夢』『リア王』『マクベス』など、多数のシェイクスピア作品を演出。演劇教育や一般向けのワークショップも多数開催し、誰でも通える「演劇の学校」を運営する。近年の演出作品に『シン・タイタス』(22年)など ■『14歳のためのシェイクスピア』大和書房 1760円(税込) あまたの映画や演劇の元ネタとして活用されてきたシェイクスピア作品。400年前の劇作家がなぜ読まれ、演じられ続けたのか。劇団「カクシンハン」主宰であり、演出家の著者がわかりやすく解説。登場人物の性格や、せりふの魅力、物語の普遍性を読者が体感しやすい構成になっており、明日を生きるためのエネルギーが湧いてくる一冊。シェイクスピアが気になる人にも、どこか元気が出ない人にもオススメの画期的な入門書だ 取材・文/矢内裕子