「時間とお金の余裕がない…」地方と都市部の子どもたち「休日の体験」の大きな違い
習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。 本パートでは週末や長期休暇(夏休みなど)といった「休日」の体験における格差のあり方を見ていく。 調査対象となる「休日」の体験は、大きく「自然体験」、「社会体験」、「文化的体験」の3つに分類できるが、そこには「放課後」の習い事やクラブ活動のように「大人の指導者」がいる場合もあるし、家族とのキャンプや旅行などそうでないものも含まれる。
自然体験も居住地よりお金
登山、海水浴、スキーなど、自然体験には様々な活動が含まれる。そして、これらのいずれかに昨年参加した子どもの割合には、やはり世帯年収による格差が見られた。世帯年収600万円以上の家庭で39.7%、300万円未満の家庭で23.1%と、およそ1.7倍の格差だ(グラフ11)。 回答者の居住地を「都市部」(=三大都市圏)と「地方」に分けたところ、自然体験への参加率に関する大きな違いは見られなかった(グラフ12)。やや直感に反するように思われるかもしれないが、「地方」の子どものほうが「都市部」の子どもよりも自然体験の機会をより多く得ているわけではないようだ。過去に国立青少年教育振興機構で行われた別の調査でも同様の結果が出ている。 要するに、地方に住んでいるからといって子どもたちが自然体験に参加する機会が多いわけでは必ずしもない。都市部であれ地方であれ、結局のところは家庭の経済力のほうが、子どもたちにとっての機会の大小により強く関係していると捉えて良いだろう。 自然体験への参加率ではなく、実際に支出している金額を見ると、都市部のほうが地方よりも高くなっている。旅行会社やNPOなどが提供する自然体験プログラムの価格の違い、あるいは山や海などへの距離に起因する旅費や宿泊費の違いなどが影響している可能性がある。 世帯年収別に自然体験への年間支出額を見ると、都市部に住む世帯年収600万円以上の家庭だけが平均1万円を超えており(1万8000円超)、ほかに比べて突出して自然体験への支出額が大きいことがわかった(グラフ13)。 子どもに自然体験の機会を与えることにどこまでの価値を感じ、そこにどこまでのお金を払うか(払えるか)には、それぞれの家庭によって大きな違いがあるだろう。 全国各地の自然学校やアウトドア関係者が加盟する一般社団法人日本アウトドアネットワーク事務局長で「みんなのアウトドア」代表の原田順一氏は、かつて自身が関わった子ども向けのプログラムについて次のように話す。 以前、毎週のように子ども向けキャンプを実施していたことがありますが、参加者のほとんどは都内在住の子どもたち。日帰りで8000円前後、宿泊だと一泊あたり2万円前後かかるプログラムでしたが、きょうだいで毎週のように参加する子もいて、その多くは私立の学校に通っているような、比較的裕福な家庭の子どもたちでした。 こうした話は自然体験の分野で活動するほかの団体の方からもよく聞くものだ。都市部の世帯年収600万円以上の家庭で自然体験への年間支出額が特に大きいという今回の調査結果とも符合する。また、一口に600万円以上と言ってもその中での幅はとても大きく、より高所得の家庭ほどそうした傾向が強く出ている可能性は高いだろう。 逆に、世帯年収300万円未満の家庭が、月に10万円台から多くても20万円前後の可処分所得をやりくりし、毎週1万円近く払って子どもをキャンプに参加させるなど現実的に不可能だ。 魚釣りをやりたがっていますが、私に知識・経験がないため、また金銭的余裕もないため、させてあげられていません。(熊本県/小学1年生保護者) 自然の雪との戯れを体験させてあげたかったが、時間とお金の余裕が無かった。(兵庫県/小学1年生保護者) 山や海は基本的に誰にでも開かれている。入場料がかからない場合がほとんどだ。だが、現実的には家庭の状況の違いが、子どもたち一人ひとりがどんな「体験」をするか、小学生の間にどれほどの「体験」ができるかに大きく関係している。 つづく「裕福な家庭と低所得家庭の子どもたち、「旅行」に行ったことがあるかどうかの格差」では、「旅行の格差」、お金のある家庭が、子どもの体験や経験を「買いにきている」といった実態を深掘りする。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)