不可能なロケも熱海なら実現? バラエティ制作を徹底サポートする行政マン
「ホテルで大きな音をたてて寝起きドッキリ」「芸人が商店街をジャックして大騒ぎ」 ── こんなバラエティ番組の“おふざけ企画”を実現すべく東奔西走するAD(アシスタントディレクター) 。そんなADを徹底サポートしている自治体がある。静岡県熱海市だ。なぜ熱海市はバラエティ番組の制作を支援する行政サービスを行っているのだろうか?
不可能なロケも熱海で実現
熱海市役所観光経済課を訪問するとスーツの職員に混ざって私服のセーターで仕事をしている男性の姿が。同課観光推進室ロケ支援担当の山田久貴さん(51)。名刺には「制作さんのパートナー」「ADさん、いらっしゃい!」「一年 365日、24時間対応」の文字が記されている。どんな仕事をしているのか? 「テレビや映画の企画にそったロケができそうな市内の施設や場所に自分であたり依頼します。頭の中には市内のあらゆる情報が入っていますから」と話す。 ロケといっても芸人が出演するバラエティ番組ともなると、砂浜を爆破したり、裸の芸人が商店街を駆け回ったり、ホテルや旅館で早朝から大騒ぎしたり、一般にはお断りしたくなる内容ばかり。 しかし、そんな時こそ山田さんの出番だという。店舗やホテル、旅館等と掛け合って他では不可能なロケも熱海で実現させてしまう。それゆえテレビADの間では「困ったら熱海の山田に頼め」と言われているほどだとか。
山田さんの仕事はロケ地の選定にとどまらず、ロケに関するさまざま折衝のほか、ロケにも自ら同行し、ADとともに交通誘導から現場のセッティング、スタッフへの弁当受け渡しも行う。もはやAD支援というよりもAD業そのものを行っている感がある。しかし、あくまでも熱海市の業務。テレビ局や制作会社から報酬を得ることは一切ないという。制作側から見れば、無料でロケ場所を探してくれ、かつロケのサポートもしてくれるのだから大いに有り難い存在だ。
自ら発案し市に提案
なぜ山田さんは市職員でありながらADのような仕事をしているのだろうか? 実はこの仕事、山田さん自身が発案し、市に提案して市長決裁を得て2012年度よりスタートしたもの。 熱海出身の山田さんは民間企業を経て、2001年に熱海市の民間企業職務経験者枠で採用され市職員に。観光課を皮切りに企画調整課、教育委員会等で仕事をしたという。きっかけは産業振興課で仕事をしていた際、1本の情報バラエティ番組を担当したことだった。制作スタッフに熱海のさまざまな情報を提供したところ、当初1本だけだった熱海ロケが翌月もロケをすることになった。当時、熱海の温泉街はバブル経済崩壊後から続く下降傾向から脱せず苦しんでいた。 熱海は廃れた老舗観光地のイメージがつきまとい観光客数も減少していた。テレビなどの制作を行政が徹底してサポートしてテレビや映画制作を熱海に呼び込めば、ロケに伴う様々なお金が地元に落ちることに加え、莫大な宣伝効果が見込める、山田さんはこう考えて自らこの業務を始めたのだった。