『クワトロ・フォルマッジ -四人の殺し屋-』 【第2話】 仕事は汚いほど金になる
孤高のハードボイルド作家、樋口毅宏によるLEON初の連載小説がスタート! エロス&バイオレンス満載の危険な物語の主人公はクセの強い4人の殺し屋たち。第1話のキラーエリート・ヒロシに次ぐ二人目の殺し屋とは……。 クワトロ・フォルマッジ
樋口毅宏作、LEON初の連載小説がスタート!
コンプライアンスでがんじがらめの社会にあって、あえて良識や常識にたてつく挑発的な小説を発表し続けてきた作家・樋口毅宏が、まさかの『LEON』で新連載小説をスタート! エロス&バイオレンス満載の危険な物語の主人公はクセの強い4人の殺し屋たち。第1話のキラーエリート、ヒロシに次ぐ二人目の殺し屋とは……。第2話を「Web LEON」で特別公開します!
■ 二人目の殺し屋:山田正義(55)
殺しは労働だ。それ以上でも以下でもない。社会が働き方改革を進めようと上司からの残業申請は断れないように、ロッカールームのバッグの中に顔写真、名前、住所、勤務先、それに金が詰め込まれていたら拒否することはできない。どこの世界も変わらない。 高校を出て幾つかの職を転々とし、現在では反社と呼ばれる世界に足を踏み入れたのは三十が見えた頃か。一線を引いた付き合いをしてきたつもりだったが、あるとき、「俺の顔に泥を塗った奴がいる。そいつのタマを取ってきてくれないか」と頼まれた。 「自分は奴と面識がないし、パクられることもないやろ」 労働の対価に見合い、金は良かった。一度だけのつもりだった。 初めて人を殺(あや)めたときも、こんなもんかというのが偽らざる気持ちだった。回数を重ねていくうち、「組のお抱え処理班」から独立した。今はフリーなので私の評判を聞きつけて、反社以外からも仕事を依頼されるようになった。 自営業にありがちな話だが、食っていけるだろうかと思うほどヒマなときもあれば、寝る間を惜しむほど忙しいときもある。手を抜くことはないし、「納期」が遅れることもない。私は使い勝手が良いのかもしれない。 この世界では「こっさん」と呼ばれている。「断らない」が、由来らしい。仕事をえり好みせず引き受けるからだ。