小学校受験は「親の感情の極み」…元No.1キャバ嬢シンママが子どもの“お受験”でぶち当たった壁とは?
■シングルマザーだから入塾を断られる?「現実にあった出来事」
――1話では、綺羅がキャバ嬢時代に「派手なママ」と周りから偏見の目を向けられたことをきっかけに、書店員として地味に生きてきたことが描かれています。最近では、(過去も含め)親の職業で子どもが偏見を受けるという風潮も弱まってきたのでは、と思いますが…。 【三田理恵子さん】世の偏見に関しては減りつつある一方で(残念ながら表す手段が多様化しただけで)、存在そのものは今も「ある」と感じております。子どものためにそれまでの自分の生き方を断つ選択をした主人公は、この世のどこかにいる誰かです。だからこそ「自分の生き方」を断たずに「子どものため」を両立できる世が今も強く求められているのだと思います。 ――同じく1話では綺羅がまずシングルマザーであるがゆえに、入塾を断られるシーンもありました。家庭環境が子どもの教育の壁になってしまうことについて先生はどう思われますか。 【三田理恵子さん】入塾が断られるシーンは、現実にあった出来事として得た情報を取り入れさせていただきました。この時代にまさかそんなと耳にした当初は当方も驚きました。子どもの教育に差があるのは資本主義社会に生きている以上、構造上ゼロにはならないのですが、その差は少しでも減り続けてほしいと願っております。それこそいつかこのマンガのお受験描写が「古っ! いつの時代のお受験なのありえないでしょ」と思われるくらいになれば一番嬉しいです。 ――読者から寄せられた声のなかで、印象に残ったコメントはありましたか? 【三田理恵子さん】全体を通してになりますが、実際の出来事を調べて描いた部分が現実的にありえないと思われ、フィクションで描いた部分がありえると思われた時はちょっと面白かったです。
■小学校受験、親が「なにをしてあげたいか」と同様に「なにをさせたくないか」が如実に
――SNS等でも「小学校受験」は関心の高いテーマのひとつです。この作品をwebtoonで届けることについて、どう感じていますか? 【三田理恵子さん】小学校受験は、子どもの幼さから中学校受験以上に親の意志が反映されます。そのため、お受験により親が子どもに「なにをしてあげたいか」と同じくらい、子どもに「なにをさせたくないか」が如実に出ると感じました。それは純粋に子の未来を想った「苦労させたくない」かもしれないし、実は己のための「子どもを通して自分になにかしらの恥ずかしい思いをさせないでほしい」かもしれない。 そういった子を通した自身の感情の正体に“気付く・気付かされる”経験は、子を別のなにかに置き換えてもありえます。読者がどのような立場の方であれ、なにかしらの経験から意識していなかった己の心の一側面と新たに出会えるきっかけに、本作がなっていれば幸いですし、本作のテーマがその一助になっていればなによりです。 ――電子コミック、webtoonなどでは、不倫や恋愛、子育て、「お受験」もその中に入るかと思いますが、実体験に近いドキュメンタリー性の高いストーリーは人気作になる傾向があるように思います。なぜ、こういったテーマが、現在世に受け入れられていると思いますか? 【三田理恵子さん】個人的には現在「も」世に受け入れられているのだと考えております。実体験に近いドキュメンタリー性の高いストーリーは平安時代ごろには既に存在しておりますので、これらを「あくまでフィクションとして楽しむ心の姿勢」を取るまでに苦労しない文化的下地があるのかなと感じております。 ――『受験狂騒は対岸の火事だと思っていました』というタイトルに先生が込めた想いは? 【三田理恵子さん】良くも悪くも己には想像もつかなかった世界・環境が案外身近な場所にある面白さと怖さ。その絶妙な距離感が出せればいいなと考えて決めました。対岸の火事を眺めている自分がいる場所も、他の誰かにとっての対岸かもね、みたいな。 ――最後に読者へメッセージをお願いします。 【三田理恵子さん】思いもよらぬ人生の選択肢が出てきた時、それを選ばない勇気も選ぶ勇気も等しく大切だと思います。その上で「選ぶ勇気を出した場合」の本作が僅かでもどなたかの選ぶ勇気の足しになっていれば幸いです。