なぜ、今ハワイで「おまかせ寿司」がブームなのか? 裏事情&人気鮨店9選
昨今ハワイで大増殖している「おまかせ寿司」。その裏事情を、情報を足で稼ぐハワイの現地エディターが一挙解説! 【写真】與平寿司カハラの料理、店内
「おまかせ寿司」ブーム、その裏事情
「おまかせ寿司」とはその名のとおり、お店のシェフにメニューの選択を任せること。シェフはその日に仕入れた新鮮な食材から選りすぐり、腕をふるう。寿司店でいうと、おまかせの反対は「おこのみ寿司」。ハワイでは後者が主流で、前者は少数派だった。 その潮流を変えたのが、2016年ワイキキにオープンした「すし匠」。中澤圭二大将が「美味しいところを少しずつお出ししていきます」とふるまう江戸前寿司は、ハワイの寿司業界に革命を起こした。ハワイ産の食材を使うことにこだわり、それを変幻自在に江戸前寿司に昇華させる中澤大将のお手並みは、同店を予約の取りにくい店にしただけではなく、米国本土からハワイを訪れる寿司好きたちにも「おまかせ寿司」の醍醐味を広めた。 「おまかせ寿司」は素晴らしい……ローカルたちがそう思ったかどうかは定かではないが、昨今ハワイで大増殖している。その走りが、2022年にワイキキ近くのカパフル通りにオープンした「OMAKASE by Aung(オマカセ・バイ・アウン)」。アメリカ本土で修業したシェフがブランド物のキャップ姿で江戸前寿司を握る姿は、日本人には奇異に映ったが、アメリカ人の寿司ファンには、お洒落なディナーとして受け入れられ、カウンターで気軽に創作寿司を楽しむスタイルは一気に広まった。
日本人同士の絆が生んだ次世代につながる注目店
それからというもの“おまかせ”を謳う寿司店が続々と誕生。大体は100ドル台でおまかせコースを提供するが、例外ともいえる高級路線で、2024年1月にオープンした注目店が「與平(よへい)寿司カハラ」だ。場所は、ワイキキからクルマで10分ほどのカハラモールの向かいにあるショッピングモール「クオノマーケットプレイス」。店に入ると、まず豪華なシャンデリアと巨大なワインセラーに圧倒される。店内はギャラリーも兼ねており、飾られた絵画は購入することもできる。 寿司のコースは、それぞれハワイ語で「ピリナ」220ドル、「キノヒ」280ドル、「ホク」350ドルの3種類。それぞれ、焼き物やお椀、お造り8種盛りの「八寸」など手の込んだメニュー構成で見た目にも楽しませてくれる。お店のロゴが入った木製の箸は食事後に特製ケースに入れて持ち帰れるというのも面白い趣向だ。寿司には珍しいアルコールのペアリングもあり、筆者が訪れた際には最後に「もう1杯お好きなものをお代わり」という嬉しいサービスもあった。 この「與平寿司カハラ」を経営するオーナーは、広島県に本拠を置くヒロマツホールディングス。広島マツダを中核とし傘下に33社の企業を抱えるコングロマリットだ。同社の松田哲也会長は、マツダ創業家のひとりでもある。 元々、「與平寿司」はダニエル・K・イノウエ国際空港近くのカリヒ地区で1990年から営業してきた老舗寿司店。広島から移住した小原一人夫妻が、ハワイの人々にも日本の寿司文化を味わってほしいという想いでオープンした同店は、地元の常連客でいつも賑わう人気店だった。 その小原夫妻も高齢となり引退を考えるように。店の今後を相談したのが、松田氏だった。ハワイが好きでよく訪れていた松田氏は同店の常連で、小原大将とは家族ぐるみの付き合い。小原大将は広島出身で、広島を本拠に発展してきた同社とは郷里でつながった。松田氏は、この店がなくなったらハワイ日系移民の歴史にとって損失だとまで思ったそうだ。 本店を残したままカハラ地区に新店をつくることになり、松田氏が目指したのは「自分たちが今できる最高の寿司店」。富裕層が多く住むとされるカハラ地区には、これまで高級寿司店がなかった。そのマーケットを狙った形だ。ワイン愛好者でもある松田氏だけあって、「與平寿司カハラ」のワインセラーには、ハワイではなかなかお目にかかれないような珍しいワインも揃っているのでチェックしてみてほしい。