いまさら聞けない「水素自動車」って何? メリット/デメリット、課題とは 普及は実現可能か
水素自動車のメリット/デメリット
■水素自動車の長所 水素自動車に乗る最大のメリットの1つは、マフラーから水以外の排出ガスをゼロにできることだ。つまり、ガソリン車やディーゼル車よりもずっと環境負荷が低いということであり、厳しい排出ガス規制が導入されている都市部では特に歓迎されるだろう。 水素自動車はバッテリーEVよりも大幅に速く水素補給ができる。水素は地球上で最も豊富な元素でもある。 他のパワートレインよりも「燃費」が良いと考える人もいる。水素自動車は、水素に含まれるエネルギーの40~60%を使用でき、燃料消費を50%削減できる。1回の水素補給で約640km走行することも珍しくない。 また、EVとは異なり、水素自動車の航続距離は外気温の影響を受けない。 ■水素自動車の短所 水素自動車はドライバー視点では高効率で環境に優しいが、いくつかの欠点もある。 マフラーからの排出ガスはゼロかもしれないが、産業規模で水素を製造するには大きな環境上の課題がある。 大規模に水素を製造するには、かなりの量の化石燃料が必要だ。タイヤメーカー大手のピレリによると、水素1kgあたり10kgものCO2が発生するという。 再生可能エネルギーを利用した製造方法もあるが、現在のところ非常に高価である。例えば、デンマークは風力発電で、アイスランドは地熱発電で水素を製造している。 また、水素自動車は構造が複雑なために購入コストが高く、水素ステーションの数が少ないことも大きなデメリットとなっている。
水素自動車の未来
現在のところ、水素自動車は一般に広く普及するには至っていない。水素ステーションの数が少なすぎるし、水素自体もまだ商業的・環境的に大量生産が可能とは言えないからだ。 しかし、英国のように水素自動車の導入加速を目的とした投資を行う国もあるため、今後数年のうちに水素技術に力を入れる自動車メーカーが増えるかもしれない。 水素自動車の推進を望んでいる企業の1つが、英国のウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング社で、2023年にFCEV用のプラットフォームを発表した。このプラットフォームは「最先端」の水素燃料電池システムと水冷バッテリーを備え、最高出力585psを発生できるという。 他にもアルピーヌは、アルペングローと呼ばれる先鋭的なV6水素エンジン車の量産化の可能性を示唆している。これは内燃機関技術と水素を組み合わせたものだ。 しかし、一般消費者にとっては、インフラと水素製造方法がもっと現実的なものになるまで、(少なくとも)英国における自動車の未来はEVのままであるように思われる。
ジャック・ウォリック(執筆) マレー・スカリオン(執筆) 林汰久也(翻訳)