「玄そばの最高峰」の声も!原種を守り育てる努力が結実した常陸秋そば
茨城県は玄そば(殻が付いたままのそばの実)の収穫量が北海道に次いで全国2位を誇る。中でもよく知られている常陸(ひたち)秋そばは、県北部の常陸太田市金砂郷(かなさごう)地区(旧金砂郷村)の在来種を1978年から選抜育成して誕生した品種で、実が大きく粒ぞろいが良く、香り高いのが特徴だ。85年に県の奨励品種に採用され、現在では県内で栽培されるそばのほとんどがこれだ。霜が降りる前に収穫され、早い地区は11月中旬から新そばが出回る。 竜神大吊橋近くで「慈久庵(じきゅうあん)」を営む小川宣夫さんによると、「県北部ではそばといえばけんちんそば」を意味し、根菜類中心のしょうゆ味の汁に入れて食べるのが一般的だった。
金砂郷地区は南北に長く、北は阿武隈(あぶくま)山地が控え、南は平坦地が多い。北部の赤土町の生産者・関則史さんは先祖代々、葉タバコ生産農家だったが、地元農家の多くが葉タバコの後作にそばを栽培する輪作をしていた。葉タバコの残肥を利用していたので品質の良いそばが作れたという。 「選抜されたのは赤土町の在来種なんです」と関さん。現在、山間の傾斜地に30アール~60アールほどのそば畑が点在し、県の契約農家として常陸秋そばの原種を栽培している。関さんをはじめ地元住民が集まって「常陸秋そばの郷(さと)まもりたい」という名の団体を立ち上げ、耕作放棄地の解消や原種の栽培に取り組んでいる。 自身の実家もそばを作っていた小川さんも「故郷のそば畑を守りたい」という思いから日本一のそば職人を目指し、「守るために(そばの実を)高値で買う」と店を繁盛させた。自ら焼き畑農法で土壌改良したそば畑に出て栽培しながら、後継者育成にも努めている。未来につないでいくのも役目という信念だ。 文/田辺英彦 写真/青谷 慶 古式健珍(けんちん)蕎麦 慈久庵 電話:0294・70・6290(予約可) 営業:11時30分~14時30分(そばが売り切れ次第終了)/火~木曜休(祝日は営業、翌日休) 交通:常磐線水戸駅から水郡線32分の常陸太田駅でバスに乗り換え40分、竜神大吊橋入口下車徒歩15分/常磐道東海スマートICから30キロ 住所:常陸太田市天下野町2162 ※「旅行読売」2024年12月号の特集「新そばの里へ」より