「やるなら堂々とやればいい」創世記のMMA経験者がドーピング問題に持論「今勝ちたいで使うのはダサい」
全ては自己責任の世界の話
村上がこの発想に至ったのには理由がある。今から30年ほど前のこと。プロ・ボディービル界の最高峰と呼ばれる「ミスターオリンピア」で優勝経験を持つドリアン・イエーツが来日を果たしたのだ。 「それまでの僕はボディービルには気持ち悪いイメージしかなかったんですけど、その時は気持ち悪いとかじゃなく、人間の筋肉ってこんなふうに動いて、こう付いているんだ、って思えたんです。彼は二つの背中を持つと言われているんですけど、彼のポージングや言動、考え方を知って、僕も見方が変わって。その人はステロイドをやってますって言い切ったんですよ。たとえ死への道であっても、そこまで覚悟して表現している。そこは僕らも同じです。覚悟を持ってリングに上がっているので。だから、やるのであれば、中途半端にしなければいいと思うんですよ」 要は、全て自己責任の中であれば、他人がとやかく言うことではない、という見解に変わったのだ。 「ただ、ステロイドの使用を認められていない大会に出るのであれば、もしそこで使っている場合には検査がある。でも、結局はそれ、数字上のことになるから、バレなければ大会には出られますよね。さっきも言ったように今はイタチごっこなので、検査結果が陰性であれば、使っていないのと同じことになる」 ここまで一気に話した村上だったが、この言葉は「バレなければ何をしてもいい」といった安易な話ではなかった。 「仮の話、数字上はそうだったとしても、自分自身に嘘をつけないと思うんです。みんなには嘘をつけても、自分には嘘をつけない。それは本人が一番分かっていますよ。その罪悪感とどう向き合うのか。その時は、うまく検査をすり抜けられてよかったと思うかもしれないけど、いずれ、どこかのタイミングで、自分の力で闘っていないと思う時が来るかもしれない。僕は使ったことがないから、そういう人の気持ちはわからないけど、いつかは心やカラダに(罪悪感や副作用が)出てくることがある。そうなった時を含めて、全ては自己責任です」 諸々の事象を踏まえて、村上は言う。 「今勝ちたいからっていう程度の理由で使うのはダサいと思います。やるならしっかりやれよと。そして胸を張って、『俺は使っている』と公言して、それが認められている大会に出ていけばいいと思いますね。逆に、使ったことで花が咲く場合もあるだろうから、それが快感で、やっぱり使ってよかったと思うのか。そこは各々の考え方だと思うんですよ」 そして、それでも出たい大会があった場合にはどういった選択をすべきか。その基準を村上はこう考えていた。 「もし、どうしても出たい大会があって、ステロイドの使用を認められていないのであれば、使わなきゃいいし。だから、僕は否定も肯定もしません。ただ、俺は使わないよっていう選択をしたっていうだけですね。中途半端にやったら、結局は人としても中途半端なままですよ。ただ、何事もやってみないと分からないこともあるから、やるならやるで堂々とガッツリやればいい。何度も言うように、全ては自己責任の世界の話なんですから」
“Show”大谷泰顕