目が開かない…なのに年金を打ち切られた 「眼球使用困難症候群」、厚労省が誤り認め再審査へ
厚生労働省や年金機構は眼球使用困難症の人たちの不支給について、どう答えるのか。記者は9月中旬、双方に尋ねた。 2週間以上たっても返答がないため、「『回答が得られなかった』と盛り込んだ上で記事にする可能性がある」と連絡。すると数日後、厚労省から「昨日、年金機構に対応を改めるよう求めた」との電話が来た。 厚労省は「取り扱いにばらつきがあった」と事実上、判定の誤りを認め、年金機構への通知ではこう記した。「『症状固定』かどうかの判断は全体の治療経過に着目し、効果や症状を踏まえて個別に判断すること」。(不支給となった)過去の事案については再審査する、としている。 ▽基準は50年以上、改正されていない 眼球使用困難症の年金不支給については、一定の対応策が取られた形だが、障害年金について厚労省は過去にもその場しのぎのような対応を繰り返してきた。 学者や弁護士、社会保険労務士らでつくる「障害年金法研究会」は10月末、国会内で集会を開催。判定の基準や仕組みを抜本的に改正するよう訴えた。
国の政令では、例えば障害年金2級の状態を「長期にわたる安静を必要とする」「日常生活が著しい制限を受ける」などと定めている。これに基づき判定基準の「基本的事項」では、2級の具体例として「活動の範囲がおおむね家屋内に限られる」と記している。 この規定は50年以上、改正されておらず、2級受給者の多くが屋外でも活動している現在の実態とは大きく懸け離れている。 集会では、同研究会のメンバーでもある前出の安部さんがこうした点を指摘。障害を個人の機能の問題と見る「医学モデル」ではなく、社会の障壁によって生じると考える「社会モデル」の視点で改正するよう求めた。 若倉医師も登壇し、眼球使用困難症の人が重度になっても1~2級の年金を受け取れない矛盾を指摘。基準の改正が必要だと訴えた。 ▽取材後記 医療や介護、年金など社会保障のことを取材して20年近くになるが、障害年金ほど不合理な点が残された制度はないと感じている。
過去10年の間に年金機構が判定実務を見直すなどして、以前よりは良くなった。だが、3千万人以上が受け取る高齢者の年金に比べ、約230万人の障害年金はずっと後回しにされてきた。 厚労省は来年の通常国会に年金の改正法案を提出する予定だが、障害年金の抜本的な制度改正は考えていない。一般の人も、自分が当事者になって初めて「なんでこんなおかしなことになっているのか」と気付くという状態だ。