目が開かない…なのに年金を打ち切られた 「眼球使用困難症候群」、厚労省が誤り認め再審査へ
神経の異常でまぶたの開閉が自由にできなくなったり、極度のまぶしさで目が開けられなくなったりする「眼球使用困難症候群」と呼ばれる疾患がある。重度になると、一日中真っ暗な部屋で過ごし、外出も難しくなる場合がある。視覚障害と同じような状態だが、昨年以降、患者が国の障害年金を不支給とされるケースが相次いだ。なぜそんなことが起きたのか。根本には、「障害」を判定する仕組み自体の問題がある。(共同通信=市川亨) 【写真】精子が通る管を切断する「パイプカット」を 重度の知的障害があっても「子どもをどうするかは夫婦で考えること」 赤ちゃんを欲しいと思ったことはあるが…
▽最初の症状は目の乾き 「今こうして話していても、目がしんどいです」。9月上旬、記者の取材に応じた茨城県の徳永公雄さん(60)=仮名=は伏し目がちに話した。 徳永さんは大手企業の事務職として働いていた。最初に異変を感じたのは2011年ごろのことだ。目が乾き、通常の光でもまぶしく感じるようになった。医者にかかり、目薬や複数の治療を試したが、だんだんひどくなる。やがて自分の意思とは無関係にまぶたが閉じてしまうようになった。 駅のホームが怖くて電車に乗るのも難しい。まぶたを指でこじ開けて仕事をしていたが、目が乾いてつらい。まぶたの異常である「眼瞼(がんけん)けいれん」との診断を4年前に受け、休職した。眼瞼けいれんは眼球使用困難症に含まれる疾患の一つだ。 会社は障害者枠での雇用を提案してくれたが、それには障害者手帳が必要だ。ただ視力や視野に異常がないと、制度上、手帳の対象にはならない。徳永さんも役所で「障害者手帳は出ない」と言われた。休職期間は今年8月に満了。やむなく退職した。
手帳がないと障害者の雇用率に算入されないので、再就職先はなかなか見つからない。退職金を取り崩し、生活費を切り詰めての1人暮らし。2021年から年間100万円余りの障害年金を受け取っていたが、それも更新に伴い、今年2月に打ち切られた。 「視力があっても、目を開けられなければ見えないのと同じ。『障害』と認められないのは不合理だ」。徳永さんはそう訴える。 ▽70%の人が支給停止に 眼球使用困難症は近年に生まれた新しい疾患概念だ。原因ははっきりしないが、電子機器の見過ぎ、睡眠導入剤や抗不安薬の服用などの影響が指摘されている。 診断基準も確立しておらず、患者数の正確なデータはない。ただ、眼瞼けいれんだけでも軽症を含めると、患者数は推定30万~50万人とされる。 患者のうち、障害年金を打ち切られたのは徳永さんだけではない。眼球使用困難症の患者から多くの依頼を受けている社会保険労務士の安部敬太さん(東京)によると、別の社労士の分を含め、昨年以降に更新時期を迎えた20人のうち、70%に当たる14人が支給を停止された。