日本メディアが触れない「フィリップ・モリス」と「東大・京大教授」の癒着告発
別会社経由で受け取っていた資金
では、何が問題だったのか。医療界で特に問題となったのは、京都大学の教授のケースだ。この教授はPMJからの資金を、別会社を介して迂回させて受け取り、そのことを明示せずに学術誌にタバコに関する論文を発表していた。 やり方は巧妙だった。バース大学の研究チームによる論文、および一連の記事によると、この教授はPMJから4950万円(資金提供が行われたとされる当時=2017~18年の為替レートで44万5000ドル)を、禁煙補助剤の研究という名目で受け取っていた。 なぜ、PMJが禁煙補助剤の研究を促進するのか。それは、PMI・PMJが加熱タバコIQOS(アイコス)の販売に力を入れているからだ。 彼らが強調するのは、その安全性だ。PMIは、「紙巻たばこの煙から発生する成分を100とした場合、加熱式たばこの蒸気から発生する有害性成分の量は平均して90%以上低減されていることが実証されています」などの主張を繰り返している。従来型の紙巻タバコの有害性を強調することで、加熱タバコへの転換を誘導するという戦略だ。 この戦略は功を奏している。2023年度決算では、PMIの売り上げの4割をIQOSが占め、日本は世界最大の市場だ。日本の喫煙者の3割がIQOSを利用している。 ただ、この主張は医学界では受け入れられていない。加熱式タバコの安全性については多くの懸念が表明されており、日本呼吸器学会は「加熱式タバコや電子タバコが産生するエアロゾルには有害成分が含まれており、健康への影響が不明のまま販売されていることは問題である」、「加熱式タバコの喫煙者や電子タバコの使用者の呼気には有害成分が含まれており、喫煙者・使用者だけでなく、他者にも健康被害を起こす可能性が高い」との見解を発表している。これが現時点での医学界のコンセンサスだろう。 もちろん、医師・医学者は、自らの信念にもとづき、自由に意見をいう権利がある。たばこ会社と共同研究をしてもいいだろう。ただ、その際は、タバコ会社との関係を公開すべきだ。このことは医学界の常識である。 京大のケースの問題は、タバコ会社との関係を明示していなかったことだ。小沼医師がTBIJに提供した文書には、PMJが医薬品開発支援会社シミックに「疫学研究の実施計画および支援」という名目で振り込み、シミックから京都大学に渡っていることが記されている。このことを京大教授、シミック、PMJは知っていた。しかしながら、シミックと京都大学の間で交わされた文書には、この旨は明記されていない。こんなことをしていたら、患者からの信頼を失う。医学界での明白なルール違反である。