<ネタバレ考察>深刻化する差別、食殺、骨入りドラッグ…動物アニメ「BEASTARS」最終期の生々しさ
第42回講談社漫画賞(少年部門)、第11回マンガ大賞、第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞ほか名だたる漫画賞に輝く板垣巴留の人気漫画「BEASTARS(ビースターズ)」のアニメ版FINAL SEASONが、Netflixにて配信中。本稿では分割2クールの前半となる「Part1」について、<ネタバレあり>で紹介する。 【写真】Netflixシリーズ「BEASTARS FINAL SEASON」PART1キーアート
仮初めの平等 容赦なく描く
そもそも「BEASTARS」の独自性は、これまでの「動物の擬人化」ジャンルとは一線を画す圧倒的な〝生々しさ〟だろう。舞台は、肉食と草食が平和に共存する社会――というのは表向きで、その裏では肉食は己の本能を抑え込むのに苦しみ、耐えられない者は「裏市」という動物の肉を売買する闇市場に足を運び、最悪の場合は生きた草食を食べてしまう「食殺」事件を起こし、逮捕されることに……。 一方、草食の間では、肉食に対する敵対心や差別の感情が消えない(「BEASTARS」の原形でありスピンオフ漫画「BEAST COMPLEX」の中では、会社の中で草食の上司に肉食の部下がハラスメントを受ける描写も)。社会的なスローガン「Live Together」は仮初めで、現実は同種カップルが多く、異種カップルは世間から後ろ指をさされて生きている。「肉食/草食」をフックに、社会に生じるであろう問題を実に細かく、そして容赦なく描いている(法律的には認められている異種カップルに支援金を支給し、ポーズをとろうとする行政に対して市民が不満を抱くマジョリティー→マイノリティーへの差別描写も)。
肉食/草食 共存の困難さ
例えばディズニー映画「ズートピア」では草食がマジョリティーとなった社会の危ういパワーバランスを描き、フランスのアカデミー賞であるセザール賞で最多ノミネートされた実写映画「動物界」では人が動物に変異したことで生じる混乱や差別を物語に盛り込み、「僕のヒーローアカデミア」では見た目が〝普通〟の人間と異なる者たちが「異形」とさげすまれ長きにわたり差別される歴史に触れていたが、こうしたテーマ的に重なる作品と比較しても「BEASTARS」はより残酷で、捕食シーンやセックスシーンなど直接的な描写が多い(異種カップルがキスの流れで食殺に発展したり、ヒロインであるドワーフウサギのハルが〝生まれたときから弱い存在〟である自分を恥じ、「セックスの際は誰でも平等」と「誰とでも寝る」ようなメスとして描かれる――という序盤の設定も強烈だ)。 そのなかで、FINAL SEASONのPart1では、学校を中退して社会に出たハイイロオオカミのレゴシが、恋人となったハルとの関係に悩みながら、ちまたをにぎわせる違法ドラッグの摘発に協力し、やがてメロンという黒幕にたどり着く物語が展開。並行して、本能に逆らわず「食物連鎖に沿って生きる」海洋生物との出会い等を絡めながら、これまでの「肉食/草食の共存の難しさ」により踏み込んでいく。本シーズンで登場する違法ドラッグの設定も秀逸で、見た目は普通のエナジードリンクなのだが微量の動物の骨肉が混ぜられており、「過去に食肉を行った者のみ反応する」仕掛けが施されている。〝肉酔い〟という禁断症状が発生し、食殺事件の増加を引き起こすものの、過去に禁忌を犯した者をあぶり出す効果もある代物なのだ。