「ボランティアのような価格」から3倍値上げ 福島の老舗せんべい店が取り込んだ観光需要
千葉から夜通し通い続ける
2011年、店を継いだ渡部さんですが、当時は下の子が小学校1年生になったばかり。そこで月3回、喜多方と千葉を往復して家業を手伝うところからはじめました。 夜、子どもを寝かしつけて午後10時に家を出発。夜中の2時に喜多方に着き、仮眠を取って、その日は一日仕事。翌日、学童のお迎えの時間までに帰るという生活を6年間続けました。 山中煎餅本舗では、職人が製造を担当し長年働いている販売スタッフもいたため、渡部さんは経理などの事務を担当しました。急逝した父が事務関係を一手に担っていたため引き継ぎなどはなく、手探り状態での店舗運営でした。 「当初は書類の扱い方がわからなかったり、支払う必要のない請求を確認しないまま払い続けていたりと失敗続きでした。失敗するたびに学んで今に至っています。何もわからないまま楽観的に飛び込んだから続けられているのかもしれません」 引き継いだ当初、経営は右肩下がりの赤字だったそうです。渡部さんはわからないなりに、主婦目線で店舗の改善に取り組みました。
パッケージデザインを一新
まずはじめたのは、店内の掃除や、通りを歩く人に笑顔であいさつするという基本的なことです。改めて俯瞰して店を見ると、商品パッケージに統一性がなかったり、サイズの合わない袋を使用していたり、デザインで商品の魅力を伝えられていないことに気づきました。 山中煎餅本舗では、父の代から喜多方伝統の「会津型」をデザインしたパッケージを使用していましたが、一色刷りだったこともあって目立たないことが課題でした。渡部さんは、昔ながらの趣を守りつつも現代に合ったデザインにしたいと考え、せんべいの種類ごとにイメージカラーを設定。2枚入りと5枚入りの2パターンを作り、「何個も欲しくなり、ギフトとしても贈りたくなる」ようなパッケージを目指しました。 さらに、プチギフトとして贈りやすいサイズの「こたまりせんべい」を開発。パッケージのイラストには福島の伝統工芸品の「起き上がり小法師」と「赤べこ」を取り入れ、土産品として手に取りやすい工夫をしました。 観光客の購買意欲をかきたてるパッケージにしたことで、卸先の土産物店から「色々な柄のせんべいを並べたい」という要望が増え、手に取る人も増えていきました。