トヨタとホンダ「認証不正めぐる認識」ここまで違う
「あまりこのタイミングで私の口から言えないが、(認証制度と現場の)ギャップはあると思う。これをきっかけに国とOEM(自動車メーカー)がすり合わせをして、制度自体をどうするかという議論になっていくとよいと思う」(トヨタ自動車の豊田章男会長) 「制度上の問題があるかというと、今回はそういう話ではない。元々決まっていたルールを逸脱したという認識なので、まずはそこを正すことが重要だ。それ以降の話は、もし必要があればしていくが、今回の話とは別だととらえている」(ホンダの三部敏宏社長) トヨタとホンダは2024年6月3日、自動車の型式指定をめぐる認証試験で不正があったと発表した。この記者会見で、政府の認証制度について問われた豊田会長と三部社長の回答は対照的だった。どういうことなのか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】 トヨタはクラウンとシエンタの開発で行った後面衝突試験で、本来なら国内法規基準の重さ1100キロの台車を衝突させなくてはいけなかった。ところが、さらに重い1800キロの台車を衝突させ、そのデータを国土交通省に提出するなどしていた。豊田会長は「本来より厳しい試験をやった」と説明した。 ホンダはフィット、オデッセイなどの騒音試験を規定の車両重量と異なる条件で行うなどした。三部社長は「法規より厳しい条件で行えば性能上の適法性に問題がないと考えてしまった」と説明した。 ◇「背景に忙しさ」ありやなしや いずれも国交省が求める認証試験よりも「厳しい試験」を行ったため、エンジンの性能やクルマの安全性に問題はないという説明だった。この点については、国交省が両社に立ち入り検査に入ったほか、安全性などに問題がないか確認試験を行うことになっている。国交省は「確認試験の結果が出るまで、安全とは言い切れない」(物流・自動車局審査・リコール課)とする立場だ。 トヨタとホンダが対照的だったのは、豊田会長が認証試験の見直しに言及したのに対し、三部社長がその必要性を否定したことだ。 トヨタが後面衝突試験で用いた1800キロの台車は北米基準だった。これに対して日本の1100キロは国連基準で、欧州やアジア各国なども採用している。 豊田会長は「日本のメーカーはグローバルにやっている。日本で認可されたクルマが『世界で一番厳しい基準を通り、大丈夫ですよ』となった方がシンプルだと思う」と語った。日本の試験も1800キロの北米基準に合わせた方がよいと主張しているように聞こえる。 その背景には「1年単位の短い納期で、何度も(仕様変更など開発を)やり直すことになり、最終工程である認証業務の現場にたいへんな負担をかけた」(豊田会長)ことがあるという。 トヨタは開発段階で北米基準の試験データを測定している。それが日本国内の認証でも認められれば、その方が手間が省けて効率がよく、現場の負担も減るということなのだろう。 トヨタの別の幹部も「背景には忙しさとか、いろんな面があった。年間これだけの車種を開発しており、全体でどれだけの負荷があったのか、無理をしていないか、現場の意見も聞きながら課題を見つけ、改善していきたい」(カスタマーファースト推進本部の宮本真志本部長)と語った。 「現場の社員に不正の認識があったのか」という記者の質問に、このトヨタ幹部は「正直、不正の認識がないというと、言い過ぎかなと思う」(同)と答えた。 ◇トヨタでも人手足りない? これに対して、ホンダの認識は異なっている。三部社長は虚偽記載など不正の背景について「今回は業務の多忙で起きたというふうにはとらえていない。法規解釈上の問題だ」「悪意のある改ざんではなく、順法性の考えが欠如していた。(認証制度の見直しよりも)まずコンプライアンス(法令順守)を正さなくてはならない」と何度も強調した。 ホンダは社員からの聞き取り調査の結果、今回の不正の原因は「(開発日程の過密さで社員が)追い込まれたのではなく、認証業務の効率化というか、再テストをできるだけやりたくないという思いからだった」(三部社長)という。 このため、社員の法令順守を徹底し、社内の監査体制を強化すればよく、認証試験の制度を見直す必要はないというのだ。 そんなトヨタとホンダの説明は、ライバルメーカーにはどう映るのか。開発と認証業務に詳しい大手自動車メーカーのベテランエンジニアに聞くと、「トヨタもホンダもあれだけ多くのクルマを開発しており、ものすごく業務が増えているはずだ。最大手のトヨタであっても人手が足りないだろう」と解説してくれた。 実際の認証試験に臨むと、担当のエンジニアはとても緊張するそうだ。「認証試験がうまくいかないと再テストとなってしまう。すると新車の発売が遅れ、営業部門からクレームが来る。そのプレッシャーでコンプライアンスに意識が向かなくなることだって、もしかしたらあるかもしれない」という。この点はトヨタやホンダに同情的だった。 しかし、「トヨタやホンダがいう『法規より厳しい試験をやったから大丈夫』という言い訳は通らない。とても額面通りには受け取れない」という。どういうことなのか。