前野隆司教授に聞く「幸せな組織づくりの秘訣」とは(後編)
■残業削減だけじゃない: ウェルビーイングが導く真の働き方改革
――近年、働き方改革が進められていますが、ウェルビーイングの観点から見て、現在どのような課題があるとお考えでしょうか。 働き方改革にも誤解があると思います。本当は、みんなが幸せに働くことを第一に考えれば、生産性が上がるから残業も減るし、それからイノベーションも起きるのです。ところが「無駄を減らしましょう」から始めるとリスクを取ってチャレンジすることを減らしてしまいます。 やはり働き方改革のキャッチフレーズが「労働時間を減らしましょう」という出発点になりがちなのが良くないのです。本当はみんなが、やりがいとつながりを持って働く。その結果、無駄な会議を減らす、ではなく、むしろ必要な会議を増やして、生産性が上がり、幸せになって、いいことが起きるっていう方向性だと思うのです。 多くの会社は、働き方改革の部分だけを見て全体を見ていないから間違えてしまっているのです。働き方改革が始まるときから、ウェルビーイングを入れておくべきだったと思っています。もちろん入れている会社もあります。そうした会社はうまくいっていると思います。 働き方改革の本質は、単に労働時間を減らすことではなく、従業員一人ひとりが生き生きと働ける環境を作ることです。そのためには、ウェルビーイングの視点が不可欠です。 例えば、テレワークの導入を考えてみましょう。単に在宅勤務を可能にするだけでは不十分です。従業員の孤立感を防ぎ、チームとのつながりを維持する工夫が必要です。オンラインでのコミュニケーションツールの活用や、定期的なバーチャル懇親会の開催などが考えられますね。 また、成果主義の導入も慎重に行う必要があります。短期的な成果だけを追求すると、従業員のストレスが高まり、長期的にはパフォーマンスの低下につながる可能性があります。成果評価と同時に、プロセスや成長度合いも評価する仕組みが大切です。 さらに、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進も重要です。多様な働き方を認め、それぞれの個性や強みを活かせる環境を作ることが、組織全体のウェルビーイング向上につながります。 働き方改革を進める際は、トップダウンだけでなく、現場の声をしっかり聞くことも大切です。従業員参加型のワークショップを開催したり、定期的なアンケート調査を実施したりすることで、実態に即した改革を進めることができます。 最後に強調したいのは、働き方改革は終わりのない取り組みだということです。社会環境や技術の変化に合わせて、常に見直し、改善していく必要があります。その際、常にウェルビーイングの視点を持ち続けることが、真の意味での働き方改革につながるのです。