「これが本当に里芋?」不思議な食感がフランス料理のテリーヌに
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里芋を使った料理の代表格といえば、「煮っころがし」だろう。醤油と砂糖であまからく煮られた里芋の食感は、むにゅっとしたというのか、ねっとりとしたというのか、やわらかい歯ごたえが特徴的で、おふくろの味を思い出す人も多いと思う。こんな里芋をフランス料理のテリーヌにしてみたらどうなるかと、試してみただけでなく、定番料理にしてしまったシェフがいる。しかし、それを実現するには特別な里芋が必要だった……。
「これが本当に里芋なのか?」
東京・飯田橋、オフィスビルが立ち並ぶ大通りから一本小路を入ったところに、フランス料理店「トロワ・サージュ」がある。こぢんまりとした店内、落ち着いた照明、会社帰りの男女が赤や白のワインを片手に会話を楽しんでいる。 提供されるメニューはブイヤベースやラタトゥイユ、エゾ鹿を使ったフランス料理の数々。いずれも旬の素材が楽しめるのだが、そのなかで一風、変わった料理が「里芋のテリーヌ」だ。「テリーヌ」と聞いて、思い起こすのはパテなどに見られるように、ひき肉やレバーなどといった肉類を野菜と合わせてオーブンで焼くレシピが一般的だろう。しかし、そこにあるのは、里芋のテリーヌだ。里芋をテリーヌに仕立てるなんて聞いたことがない。
オーナーシェフの鎌田佳行さん(51)は、「テリーヌというのは、テリーヌ型を使った料理のことを言うので、これと決まったレシピがあるわけではありません」と説明する。厨房から自信ありげに出された一皿には、ベーコンで巻かれた見慣れたテリーヌの一切れが季節の野菜とともに盛られていた。 よく見てみると、切り口が雪のように白い。こう言っては大げさかもしれないけれど、輝いている。その里芋の断面は、見るからにねっとりとした質感ではなく、固い質感をともなっていた。
フォークとナイフで里芋のテリーヌを切り、一口食べてみる。オリーブオイルの爽やかさと白ゴマの香り、ベーコンの香ばしさを鼻で感じたあとに、しゃきっとというのか、さっくりとしたというのか、そんな歯ごたえを感じる。「これが本当に里芋なのか?」というのが最初の感想だ。同じ芋でも、ジャガイモをオーブンするとほっくりとした食感になるけれど、こちらはその歯ごたえとはまったく違う。