「人生のピークは遅いほうがいい」が家訓。ゆっくり育てば楽しみが先に残る【ヨシタケシンスケインタビュー】
二男のかんしゃくにイライラしたことも
――二男が生まれたときはどうでしたか? ヨシタケ 長男の育児を経験しているから2人目も大丈夫だろうと思いきや、きょうだいとはいえ当然違う人なので、長男とは全然タイプが違いました。 ――息子さん2人はそれぞれどんなタイプですか? ヨシタケ ひと言でいうと長男はマイペースで二男はお調子者です。長男は何もしなくても最大限にケアしてもらえるからマイペースな子に育ったと思います。二男は生まれたときから兄というライバルがいるから、自分に注目してもらうためにおちゃらけるタイプでした。 長男は、夜泣きのときはつらかったですけど、ある程度大きくなったらわりと聞き分けのいい子でした。二男は夜はあまり泣かずによく寝る子。ただ、怒りっぽい、かんしゃくを起こしやすいところがありました。二男が家でも外でもギャーッと泣きわめいておさまらなくなることは、すごいストレスでイラッとしていました。人の子だったら全然いいのに、自分の子となると許せない感情になりますよね。 ――かんしゃくを起こしたときはどうしたんですか? ヨシタケ 外でかんしゃくを起こしてしまうと、もうどうしようもないから力ずくでその場を立ち去ることもありました。子どものかんしゃくに我慢ができなくなる瞬間に気づいたとき、親である自分を怖いと感じました。児童虐待のニュースなどを目にすると、いつ自分に起きても不思議がなかったな、と思います。子どもにイライラしたときに、もしもなにかもう1つ嫌なことが重なったら、自分もあちら側に行ってしまっていたかもしれない、とぞっとする感覚を知りました。
人より成長がゆっくりなのは、お楽しみが先に残っているということ
――子育てで大切にしていたことや、ヨシタケ家の教育方針があれば教えてください。 ヨシタケ 僕と妻の性格が逆なので、父親と母親で怒るポイントが違ったのはよかったかな、と。両親にそろって怒られたら子どもの逃げ場がなくなっちゃいますよね。家庭内で父親と母親で全然対応や考えが違うと、子どもの選択肢も1つではなくなるから。 ――ヨシタケさんの意見に対して、お子さんから「お母さんはこう言ってたよ」と言われることもありましたか? ヨシタケ 子どもに「今日はこのズボンをはきな~」と着替えを用意したら、「お母さんがそういったの?」って確認されましたね(笑)。お母さんの決定かどうか確認してこい、と戻されるっていう(笑)。そういう意味ではわが家の教育方針は「お母さんを怒らせない」かもしれません。自分たちにいちばん影響力のある人の機嫌を損ねることが、どれだけ自分の利益を損なうかを学ぶことは、人間として大事なことなんだろうなと。 ――(スタッフ一同大笑い) ヨシタケ …というのは冗談にしても、妻との間でよく話していたヨシタケ家の家訓は「人生のピークは遅いほうがいい」ということです。僕自身が40歳で絵本作家としてデビューして、少しずつステップアップして、今が一番楽しいな、といつでも思って生きてきました。そういう人生のほうが、満足してる時間は長い気がします。 小学生のときめちゃくちゃ勉強ができた人や、中学生のころめちゃくちゃモテた人のように、人生のピークが早いと、大人になってから「あのころはよかった」と思ってしまうのかな、と。それもすごい偏見かもしれないですけど。 だから、たとえば同じ月齢の子と比べて言葉が遅いとか、育ちがゆっくりだとか、できないことがあったとしても、それはお楽しみがまだ先に残っているということ。親になると、人より先んじて頑張れ、と言いたくなる気持ちもわかるけれど、人より早いことが必ずしも幸せに直結するものではないよね、という価値観を妻と共有していました。ほかには、なるべく自分の失敗談をたくさん教えたいということも教育方針の1つだったと思います。 ――失敗談を教えたい、とはどういうことでしょう? ヨシタケ 小学生のときにズボンのおしりがやぶけてさあ、とか。あんな失敗をして、笑いものになったけど、今はべつに大丈夫だよ、と。失敗したってなんとかなるし、どんなことでもネタになる、と教えることは、すごく大事な気がします。だから君も完璧じゃなくていいし、失敗していいんだよ、と失敗することのハードルを下げておくのもいいと思います。自慢話より失敗談をたくさん伝えたいですね。