新政権でも変わらぬ「円安 or 金利上昇」の二者択一、依然旺盛な家計資産の外貨流出、避けるべくは「日本版トラスショック」
避けたい日本版トラスショック
仮に、新しい総理・総裁が日銀の政策運営、具体的には利上げを露骨にけん制した場合、ほぼ間違いなく為替市場が円安という形でその負荷を引き受けることになるだろう。その円安が日本社会に多大な痛みを強いる場合、「やはりある程度の金利上昇は必要」というムードは盛り上がらざるを得ない。 世論が傾けば、政府的にも利上げの容認は進むだろう。結果、円安と金利上昇が併発する恐れはある。この状況を世論が前向きに評価することはあるまい。 結局、中銀の政策運営を無為に束縛しようとすれば、政権の持続性に関わりかねない。過去2年半の円安相場は歴史的相場であり、ピークこそ一旦過ぎ去っているものの、日本の金利・為替市場は非常にデリケートな状況にあることを為政者には認識して貰いたいと願う。 思い返されるのは2022年9月に誕生した英国のトラス政権だ。同政権は市場期待と相対峙する拡張財政路線を敢えて強弁した結果、激しい通貨安と金利上昇に直面し、就任からわずか45日間という史上最短記録での退陣を強いられた。金融市場が退陣させたと言っても過言ではない。 もちろん、英国と日本では資金循環構造が異なるので単純比較はできないし、今回は紙幅の関係上、その精緻な議論も控える。ただ、既に家計部門が円を売ることについて抵抗感が薄れ始めている日本において、これを殊更煽るような情報発信が政治から出てきてしまうと、英国と同じような混乱に直面する怖さはある。 既に「貯蓄から投資」が外貨性資産を中心として盛り上がっている中、日本版トラスショックと呼ばれるような混乱を起こさないように、為政者からの情報発信は細心の注意が必要な状況に入ってきているように思う。
唐鎌大輔