新政権でも変わらぬ「円安 or 金利上昇」の二者択一、依然旺盛な家計資産の外貨流出、避けるべくは「日本版トラスショック」
では数字を見てみよう。今年6月末時点で家計部門の金融資産は前年比+4.6%増加の2211兆7000億円と6四半期連続で過去最高を更新している。記憶に新しいように、円安・株高がピークを迎えたのが7月上旬であるため、こうした仕上がりは想像できたものだ。 毎回注目している筆者試算の外貨性資産は101兆7000億円と初めて100兆円を突破し、総資産に占める割合は4.6%とやはり過去最高であった。2000年3月末と比較すると金額にして約7.7倍、比率にして約5倍まで膨らんでいる(図表(1))。 「貯蓄から投資」は徐々に、しかし確実に「円から外貨」という形態で進んでいる。また、株式・出資金も初の300兆円台に乗せ、比率も13.6%とやはり過去最高水準であった(厳密には3月末の13.7%が過去最高)。 2000年3月末と比較すると金額にして約2.2倍、比率にして約1.4倍まで膨らんでいる。少なくとも今年上半期に関しては、日本の家計部門は資産運用立国の旗印の下、投資意欲を遺憾無く発揮しているように見える。
外貨建て資産1割超の可能性
もちろん、8月上旬の相場変動が反映される次回9月末時点の数字はまた異なった姿になるはずだ。とはいえ、8月以降も家計部門の投資意欲がさほど衰えていないことは月次で確認される投資家部門別の対外証券投資からも確認済みできる(8月の投資信託経由の対外証券投資は+1兆1702億円で過去3番目に大きな買い越しであった)。 9月末時点の資金循環統計では、円高の影響もあって外貨性資産比率が低下する可能性はあるものの、それをもって「家計の円売り」が退潮になったと判断はできない。ちなみに近年急増が指摘される外貨建て生命保険は統計の制約上、保険・年金準備金に含まれている。これが金額にして544兆7000億円、比率にして24.6%と非常に大きい。 通貨建ての内訳を知ることは叶わないが、もし保険・年金準備金のわずか1割でも外貨建て資産だと仮定した場合、外貨性資産の比率は7%を超えるし、2割だとすれば10%に肉薄する。保守的に考えるのであれば、実態として日本の家計金融資産の10%近くが既に外貨建てになっている疑いは持っても良い。 外貨建て資産を資産別に見た場合、やはり全体をけん引しているのは投資信託で、筆者試算では金融資産全体に対し2.6%が投資信託である。これに対外証券投資(1.7%)、外貨預金(0.3%)が続いているが、上述したような外貨建ての保険商品が仮に保険・年金準備金の1割だと仮定すると対外証券投資を超え、投資信託に匹敵する存在感を放つことになる。繰り返しになるが、統計で捕捉できる以上に日本の家計部門における「円から外貨」は進んでおり、これが円安相場の底流にある可能性は否めない。