栗山英樹「信じ切る」に至れば、結果に納得がいく WBC、絶不調だった村上宗隆を出し続けた理由
知っていただきたいのは、そんな僕にプロ野球の監督という大役が委ねられたということです。さらには、侍ジャパンという日本代表を率いるチームの監督まで任されることになった。そして、監督としてWBCに挑み、世界一になった。 人生は、何が起きるかわからない。僕自身、本当にそう思います。そして、こういうことは僕にだけ起こるわけではない、ということも僕は同時に思っています。驚くような未来は誰にでも待ち構えている可能性が十分にある、と。
■「普通、選手に向かって言わないですよね」 まずは、信じる。いろいろなことについて、僕はそこから始めることが少なくありません。また、「信じている」と言葉に出したりもします。ただ、これはずっと昔から無意識にしていたことで、誰もがする、ごく普通のことだと思っていました。 実は必ずしも普通ではなかった、と改めて知ったのは、北海道日本ハムファイターズの監督になった1年目のことです。 ある主力選手がメディアのインタビューを受けていたのを偶然見たのですが、こんなことを言っていたのです。
「監督が『お前のことを信じてる』とか言っちゃうんですよ。普通、選手に向かって、そんなこと、言わないですよね」 信じていると相手に伝えることを僕は普通のことだと思っていましたが、実はみんながそうではないのだ、と気づいたのは、このときでした。 しかし、僕はその後も選手たちに「信じている」と言い続けました。WBCでも侍ジャパンの代表選手たちに言っていました。なぜなら、本当に信じていたからです。 本当にそう思っているなら、言葉に出したほうがきっと伝わると僕は思っていました。気恥ずかしいとか、かっこつけてるとか、そんなふうに思われたとしても、「信じている」と言葉に出したほうがいいと考えていたのです。
ただ、信じているといっても、やっぱり不安になることもあります。大丈夫かな、と思うこともある。野球のような勝負ごとは、その日の調子もあります。 それでもだんだんわかっていったのは、これこそが勝負の綾(あや)になる、ということでした。最終的に信じ切れるかどうか。どこまで本気で自分がそう思っているか。それこそが問われるのです。だから、僕は信じるし、信じ切る。それを大事にしてきました。 WBCの準決勝、メキシコ戦。9回裏で日本は4対5と負けていました。あと3つアウトを取られたらゲームセット。侍ジャパンのWBCは、そうなったらここで終わりでした。しかし、僕は信じ切っていました。選手たちは、きっとやってくれる、と。