創業100年を迎えるシヤチハタ、舟橋正剛社長が見据える「脱ハンコ時代」の生き残り戦略
■ 米DocuSign社との提携の経緯と新たなビジネス展開 ──従来の仕事のやり方を変えずに済む点から、サービスコンセプトの名称を、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)ならぬBPS(ビジネスプロセスそのまんま)としたそうですね。 舟橋 はい。部下が上司に「承認印をください」と言って、上司がこれまでネーム印を押していた紙のやり取りのプロセスを、そのままデジタルに移行したシステムにしないと「やっぱりハンコのほうが良かった」という話になりかねませんから、使い勝手の良さにはこだわっています。 また、中小零細企業がデジタル化を進めていく際のハードルは、かなり低いところから始めていかないと“DX難民”が生まれる可能性があります。そういう意味では電子決裁分野もまだまだ黎明期と言えます。 ──2015年にはアメリカの電子署名テクノロジー企業であるDocuSign+(ドキュサイン)と提携しましたが、どのような経緯があったのでしょうか。 舟橋 普通であればわれわれの方から売り込みに行かせていただくところですが、わざわざ先方から来られて、「日本で電子決裁ビジネスをやっていくためには、ハンコが必要だから一緒にやってくれませんか」とご提案いただきました。大変ありがたいお申し出だったので、即決しました。 DocuSignさんは日本の認証文化や市場規模などをしっかりマーケティングしています。日本では紙で書類を作成し、承認を得るには起案担当者が押印し、その後上司が確認、そして責任者が最終的にハンコを押して承認という流れが一般的です。このようなプロセスが存在する中で、欧米式のサインによる署名より、決められた枠の中にハンコを電子的に押印した方が、日本ではなじみがあると考えたわけです。 ──提携後はどんなビジネスを展開していますか。 舟橋 DocuSignさんが独自に印影を作成するのではなく、先方のアプリケーションで名前を入力すると、当社のフォントで印影がすぐ使えるようにデータを提供しています。またネーム印だけでなく、いつ承認したか分かりやすい日付印も導入しました。 提携してみて実感するのは、欧米式のサインと日本のハンコは、単純に文化と視認性の違いだけということです。電子決裁のセキュリティー上は、押印していない状態でも基本的に問題はないのですが、やはりしるしとして印影があった方が分かりやすいですし「瞬時に判別できる」とほとんどのお客さまは思われています。