創業100年を迎えるシヤチハタ、舟橋正剛社長が見据える「脱ハンコ時代」の生き残り戦略
■ より複雑化する情報化社会で有望な「個別認証技術」とは? ──今後、新たなビジネスとして有望なものはありますか。 舟橋 たとえばWeb 3.0などの技術革新の中でNFT(偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ)とハンコは信頼性の観点で親和性が高いと考えています。そのため、特徴ある新サービスを出していける可能性は十分にあります。 その際はBtoB向けのサービスよりも、BtoCサービスが主力になるかもしれません。例えば、トレカ(トレーディングカード。カードを収集することや交換することを目的としたカード)的な娯楽の領域で、NFTとシヤチハタの技術を融合し、スタンプで証明することで信頼性や安全性を担保するようなイメージも考えられます。 そうしたユニークな新サービスは当社だけのノウハウや技術ではやはり難しいと思いますので、外部企業とのコラボレーションや、提携する形を今後いかに広げていけるかがキーポイントになると思います。 ──既存技術の応用や転用といった新サービスも考えていますか。 舟橋 われわれが強みとするインキやゴムの技術分野は応用できると考えています。ゴムの実験レベルでは、電気を通さない電波吸収ゴムや放射性物質を遮断するゴムなどもすでにできているのですが、それらをどう商用化、量産化して世の中のお役に立つものに仕上げていくかは、まだこれからの段階です。 また、インキの分野で言うと、当社の個体認証システム「SAMP」という技術を使えば、人の目では判別不可能な印刷物の色のバラつきを利用して認証できます。例えば名刺が複数枚あれば、ロゴマークなどの色はわずかな印刷時間の違いによってそれぞれ微妙に異なるため、それを応用して個別認証できます。 JANコード(バーコード)では製品別の識別番号でどのメーカーが製造した製品かが分かりますが、今後は一つ一つの製品ごとに識別していくニーズも出てくるでしょう。その際に、微細な色ムラの部分にデータを入れて個別認証できればJANコードやQRコードが付いていなくても判別できます。 今後、より複雑化していく情報化社会を考えると、こうした個別認証技術が確立できれば、偽造防止の観点も含めてニーズはかなりあると思っています。 ──1925年にシヤチハタの前身である舟橋商会を興してから、来年(2025年)は節目の100周年を迎えます。 舟橋 シヤチハタはここまでファミリー企業として歩んできており、私も2006年に社長に就いてすでに18年余りがたちました。物事を見る時やビジョンを考える際、自然と10年、20年というロングスパンでの思考になるわけですが、そうなると、いや応なく先々を見据えた時のリスクを常に意識します。 そうした危機感のようなものは創業者の時代からずっと受け継いでいるものですし、特にファミリー企業のトップであれば皆さん、同じ思いや考えの方が多いだろうと思います。来年の100周年を機に、シヤチハタも「第2の創業ステージ」に入りますので、今後どんな展開をしていくか、未来のチャンスとリスクの兼ね合いの中、まさに今いろいろ思案しているところです。
河野 圭祐