草笛光子×内野聖陽 初対面から同志だった、25年来の絆「この歳で主演って大変よ」「この仕事を長く続けるなら、見習わなければと思います」
25年前、初対面ながら「昔からの知り合いみたいな気がする」と草笛光子さんが感じたという俳優の内野聖陽さんが、今回のゲスト。年齢差を忘れるほど打ち解けた関係性は微笑ましくも、「俳優」としての経緯が互いの絆を深めてきたことが伝わってきます(構成:篠藤ゆり 撮影:天日恵美子) 【写真】2人が並んだ仲よしショット * * * * * * * ◆役者における声の面白さ・難しさ 内野 そういうときの草笛さんは、本当に楽しそう。そこがカッコいい。でも、実は草笛さんときちんと共演したのは、あの舞台で一度きりなんですよ。同じ作品に関わっている、というのはいくつかありますけど。そのなかでは、時代劇『蝉しぐれ』が非常に印象に残っていますね。 草笛 あれは、よかった。 内野 少年期に政変に巻き込まれた父を処刑され、その後も運命に翻弄される主人公の牧文四郎を僕が演じて、そのドラマのナレーションを草笛さんが務めてくださったんですが、このナレーションがもう素晴らしくて。 草笛 文四郎を思う母の愛を表現してほしい、というのがプロデューサーの意向だったのよ。 内野 文四郎は養子なので、実母が登場することがないですからね。 草笛 あの作品はね、私も覚悟してやったの。 内野 覚悟?
草笛 肉体は表に出さず、声だけで文四郎を愛情で包まなくてはいけない。さて、どうやってその要求に応えるか、ということ。 内野 20年ほど前の作品ですけど、3年前に再放送されたとき、電話をくださったでしょう。「いまテレビでやってるのよ。いいわねー、あれ」って(笑)。その電話で、改めてナレーションについておっしゃってましたね。「あえてきれいな声は使わずに、寝起きのままで声を出した」って。 草笛 そうね。朝起きてから、「あー」とも「すー」とも言わず、声を一切発さずに現場に行ったの。もちろん発声練習もしなかった。少しでも発声してしまうと、声が響いてしまうから。 内野 響かないようにしたかったというのは? 草笛 声がきれいじゃ意味がないの。むしろ響かない声で、あなたを包みたいと思った。要するに、「うまいナレーションをしよう」とは思わなかったわけ。でも成功するかわからないから、初日はおっかなかったわよ。 内野 多彩な技も豊富な経験も持ち合わせているのに、あえてすべて封じ込めて、まったく違うアプローチでナレーションに取り組む。電話でこの話を聞いたとき、草笛さんはやっぱり役者としての志が高い方だ、すごすぎる! と改めて思いましたね。あれは、ナレーションによって最終的に完成されたような作品です。 草笛 いい作品に恵まれるのは、私たちにとって幸せなことよ。あのときは、録りながら何度も泣きそうになりましたしね。あなたの文四郎も、時代劇の声がちゃんと出ていたから、とてもよかった。舞台でもそうだけど、難なくいろいろな声が出せるのはあなたの強みね。 内野 僕、お寺の生まれじゃないですか。小さいころから父の横でお経を読んで育っているんです。だから独特の発声法で、自然と声帯が鍛えられたのかもしれない、と最近思うようになりましたね。
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